ビル解体によるアスベスト飛散にご用心
環境監視研究所  中地 重晴


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【項目】

地震後、神戸の街に行って
高濃度のアスベストを検出
アスベストの有害性
神戸の現状
どうすればよいのか


地震後、神戸の街に行って

 大地震で命拾いし、ホッとした1月下旬、誰かれともなくマスコミから アスベストについての問い合わせが相次ぎました。こちらはまだ水もガス も出ず、ライフラインの確保がやっとだというのに。マスコミからの誘い に根負けした形で、神戸の街中を歩きだしました。
 まだまだ交通道路事情が悪かった2月5日天保山から船でメリケンパー クに渡りました。小生の住んでいる芦屋もひどかったのですが、港の周辺 の道路の壊れ方、液状化で真っ黒な細かい砂が吹きでている惨状にびっく りしました。三宮駅周辺、阪急、大丸、そごうみんなダメになっている姿 を見て、ホントに地震のエネルギーのものすごさを改めて感じました。4 年前に恐る恐るチェルノブイリの石棺の前に立った時と同じように、自然 のエネルギーを人間が制御することはできないことを確信した次第です。
 三宮の繁華街を歩いてほとんど全部の雑居ビルが倒れたり、傾いたりで、 あちらこちらのビルの鉄骨に吹き付けられたアスベストがむき出しになっ ているのを見て歩きました。
 まだ、水道も復旧していない頃で、水も撒かずにビルの解体工事が進め られており、このまま行けば、相当の粉塵とアスベストの飛散で大変なこ とになるなと直感しました。

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高濃度のアスベストを検出

解体現場近くの、人が通る場所でアスベスト濃度を測定。250本/lだった。
(神戸市東灘区山光マンション 02/18/95)

 2月初めから何度か神戸入りし、被災地の状況を調査している東大のア スベスト根絶ネットワークの依田、温品両氏からむちゃくちゃな解体工事 をやっているマンションがあるという知らせがあり、2月18日東灘区の 田中交差点近くでサンプリングを実施しました。国道2号線の歩道を塞ぐ 形で倒壊し、最も有害なクロシドライト(青石綿)が吹き付けられた鉄骨 がむき出しになっているところでした。水もかけずに解体される周辺はほ こりだらけで大変でした。

 後日顕微鏡で数えてみると160本/lと250本/lというアスベス トの作業環境基準と同じレベルであり、アスベスト製造工場の敷地境界で の排出基準の16倍と25倍という結果が出ました。
 環境庁よりも早く大気中のアスベスト濃度を発表したため、マスコミに も注目され、「神戸の街に発癌物質アスベストが降る」実態解明への第1 歩となりました。

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アスベストの有害性

 アスベストは自然に産する繊維状の鉱物で長さが10μm直径がその1 000分の1程度の非常に細かな繊維です。物理的、化学的に安定なため、 耐熱、断熱、吸音などのために建材として使用されています。以前はセメ ントと混ぜて鉄骨や天井、壁などに吹き付けられていました。75年にア スベストの吹き付け作業は原則禁止になりました。アスベストは呼吸によ って空気と一緒に肺に入り、肺胞に突き刺さり、線維化して石綿肺を引き 起こしたり、肺がんと悪性中皮腫と呼ばれる胸膜(以前は肋膜と呼ばれて いた)や腹膜のがんを引き起こします。特に肺がんや悪性中皮腫は潜伏期 間が15年から30年と長いのが特徴です。また、肺癌についてはアスベ ストとタバコによる相乗効果が疫学的に立証されています。悪性中皮腫に ついてはアスベスト以外では発症しません。イギリスやアメリカでは約2 0年前から悪性中皮腫でなくなる方が増加し問題になっています。日本で は以前は死亡例がほとんど報告されなかったのですが、10年前から増加 し、死亡者は年間100人以上にのぼります。これは日本の高度経済成長 でアスベストの使用量が増加した時期から約20年遅れで、潜伏期間を過 ぎ、被害が明らかになりだしたと考えられます。
 被ばくから被害が出るまでに長い年月を要するため、欧米では「静かな 時限爆弾」呼ばれています。

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神戸の現状

Fig.1  今回の大地震で約2000のビルが倒壊したといわれています。現在その 解体工事が進められていますが、緊急性を重視する余り、散水や防塵シート などの安全対策を行なわずに解体されている光景が目につきます。毎日約1 00ヶ所で同時にビルの解体作業があるといわれています。解体されるビル には60年から70年代に建てられた物が多く、吹き付けアスベストの飛散 が問題になっています。アスベスト濃度は環境庁の調査でも全国平均と比較 して、被災地では平均で約10倍、最高40倍高くなっており、対策が必要 だとしています。県や神戸市の推定では吹き付けアスベストのある建物は約 50ヶ所程度と言われていますが、少なく見積っても500は超えると考え ています。そうしないと現在の環境濃度の増加を説明できません。

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どうすればよいのか

 では住民としてどうすればよいのでしょうか、とにかくアスベストをまき 散らす可能性のあるビル解体現場には近づかないことです。外出するときに は防塵マスクを着用する。スーパーや生協、薬局などでも入手できるので、 国家検定済みのマスクをつけることを進めます。また、アスベストは今でも 年間約20万トンが輸入され、建材として使用されています。石膏ボードや けいカル板という内装材やスレート瓦に用いられています。これらも解体す るときにはアスベスト粉塵の発生源となります。すでにアスベストを含有し ないノンアス建材も十分開発されており、そちらを使用することを勧めます。 「壊れた時に有害性、危険性を表わすものは使わない。普段から危険性を減 らす努力をする」ことが今回の大震災の教訓だと思います。

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(C) Mar.1995, Shigeharu Nakachi

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