今なお続く被災地のアスベスト飛散
中地 重晴


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【項目】

震災から半年
ネットワークの結成
おさまらないアスベスト汚染
対応異なる兵庫県と神戸市
アスベスト含有建材の撤去は今後の課題


震災から半年

 忌まわしい阪神大震災から早6カ月が過ぎました。被災地にも落ち着きが戻ったかのような報道がされていますが、まだまだ問題は山積しています。今、被災地は復興に向け、倒壊した家屋や構造物の解体作業が進められています。解体作業は神戸市で5割、他地域で6割以上進んでいると報告されています。筆者の自宅の周辺は木造住宅の9割が倒壊しましたが、今は解体作業が進み、ほとんどの家屋が取り壊され、更地になってしまいました。地震直後、2、3月は夜になると電灯もつかず、不気味な感じでしたが、現在では空き地ばかりでまったく違う光景になりました。区画整理地域に指定され、道路や公園を広げる計画が建てられ、はたしてもとどおりの生活がおくれるのか不安に思っている人も多いようです。

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ネットワークの結成

 被災直後、「緊急性」を優先する危険な解体工事が急ピッチに進められました。同時並行的に解体工事が行なわれたため、粉塵の飛散が問題になりました。長田区や中央区、神戸YWCAなどのボランティアグループがマスクのカンパを呼びかけ、全国から手作りのマスクが送られてきました。また、東京のアスベスト根絶ネットワークやタレントのマリ・クリスティーヌさんが中心になって、阪神大震災支援マスクプロジェクトを呼びかけ、カンパで購入した防塵マスクを被災地の小中学校の生徒に配布する活動を行なっています。
 これらの動きの中で、解体作業に伴うアスベスト飛散の危険から自らを守りたいという住民の声もあがり、3月25日に「被災地のアスベスト対策を考えるネットワーク」(略称、被災地アスネット)をボランティアと住民で結成しました。
 まず手始めに現地調査活動や吹き付け材の見分け方の講習会を開催しました。4月13日には神戸市に対し、きちんとしたアスベスト対策を講じるよう要望書を提出し、環境保全部の担当者と話合いをもちました。また、5月27日には「見えない危険が飛んでいる!被災地のアスベスト汚染を考えるシンポジウム」を開催し、約200名の市民の参加を得、関心の高さを知りました。この前後、マスコミにも大きく取り上げられたため、電話による問い合わせがひっきりなしにかかってき、その応対にてんてこまいでした。

三宮センター街の震災前(左)と震災後(右)。
吹きつけアスベストがむき出しになった下を通っていく市民たち

 残念ながら兵庫県や神戸市はアスベストに関しては全く市民に広報しません。そのため、アスベストに関する正確な情報が市民に伝えられていないと思います。それで、6月30日から7月2日までアスベスト電話相談を実施しました。3日間で94件の電話相談があり、人々の関心の高さが示されました。最も多かった問い合わせは自分の住んでいるところの環境中のアスベスト濃度に関してでした。また、電話で相談のあった危険な解体現場については実地に観察し、2ヶ所で吹き付けアスベストの存在を確認しました。そのうち1ヶ所は我々の通報を元に神戸市が解体工事を中止させ、アスベストの除去工事を行なってから解体するような指導が行なわれました。
また、後述しますが、芦屋ハイツ翠ケ丘というマンションの解体工事の説明会について協力してくれるよう複数の住民の方から問い合わせがありました。結局このマンションでは吹き付けアスベストは見つからなかったのですが、アスベスト含有建材の撤去を吹き付けアスベスト除去工事並みにきちんと行なわせることになりました。
 地震直後から危険性を指摘されたアスベストの飛散に関して、市民運動として、ネットワークを結成し、監視活動を行なったことが、行政に対する牽制となり、無謀で危険な解体工事に歯止めをかけることができたと自負しています。

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おさまらないアスベスト汚染

 被災直後の2、3月は水道も復旧せず、防塵シートや散水もせずに、解体工事が進められているのが目につきました。時間が経つにつれて、若干改善されて、足場を組んで防塵シートをかけ、散水をするなどの対策がほとんどの解体現場で見かけられるようになりました。しかし、神戸市内だけでも同時に100ヶ所近くの建物の解体工事が同時並行して行なわれている現状の中では、粉塵の飛散を押さえることは容易ではありません。環境庁は2月から毎月被災地域17地点で、継続して環境中のアスベスト濃度を測定しています。2〜4月までのデータを見る限り、幾何平均値では0.9〜1.2本/lを示し、横ばい状態だといえます。4月の測定結果では最高値が2.1本/lと大幅に減少しましたが、状況は変わっていません。93年度の環境モニタリングの全国平均と比較しても、7、8倍高い値を示しています。また、解体現場周辺での測定では、平均値が3.8本/l、最高値は10本/lの大気汚染防止法で定められた排出基準とほぼ同じ値を示しており、問題であることが明かです(表1、2)。

表1 解体現場周辺調査 (単位:本/l)
測定日最小〜最大中央値幾何平均検体数
3/9〜160.8〜 7.72.63.020
4/24〜280.9〜 9.55.43.816

表2 解体現場周辺の濃度分布 (単位:地点)
測定日0〜1.0〜2.0〜3.0〜4.0〜5.0〜6.0〜7.0〜8.0〜9.0〜10.0〜検体数
3/9〜162633211200020
4/24〜282112251011016
解体現場は異なる。(1ヶ所につき2地点で測定)

 私たちの監視活動で見つかったことですが、解体開始時はわからなかったが、解体工事がある程度進んでから鉄骨に吹き付け材が露出する例がいくつもありました。ある有名中華料理店では青石綿が露出し、被災地アスネットから市と労働基準監督署に通報し、一旦工事を中止させ、アスベスト除去工事を行なった上で、解体工事を行なわせるようにしました。中には解体途中に吹き付け材が露出しても契約が完了しているため、そのまま解体作業を続行し、アスベストを飛散させた現場もいくつかあります。
 また、環境庁の調査は第1次〜第3次まで毎回測定機関が異なり、光学顕微鏡法による測定者の個人差などの誤差を考慮すれば、各地点での各回ごとの濃度差を論じることはできず、大ざっぱな傾向しか把握できないと筆者は考えています。そのため、環境庁も第3次以降の調査は同一の分析機関に委託したようです。
 市民の方からよく第1次と第3次の結果を比較して高くなったかどうかを聞かれますが、ほとんど状況は変化していないと説明しています。おそらく環境中のアスベスト濃度の上昇は解体作業が完了するまで、あと約1年は続くだろうと予想しています。筆者は、今回の地震によるアスベストの環境濃度の上昇原因は吹き付けアスベストの飛散によるものだけでなく、アスベスト含有建材の飛散が相当量関与していると考えざるを得ないと思っています。

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対応異なる兵庫県と神戸市

 アスベスト飛散対策については神戸市と兵庫県でかなり取り組みに差が出てきています。神戸市は私たちが申し入れをしたり、被災直後から住民からの問い合わせが殺到し、アスベスト対策の取り組みについては精力的で、評価すべきだと考えています。
 担当の環境保全部指導課大気係は、5月末には「震災に伴う家屋解体・撤去工事におけるアスベスト粉じん対策に係る基本方針」を発表し、市民からの問い合わせの多かった神戸市内のアスベストの環境濃度を詳細に把握するために、面的測定と称して市内40ヶ所の小学校で環境測定を実施しました。また、6月末から市内の解体を予定している建物をパトロールし、現在約370棟が残っており、その中で吹き付け材が発見されたものが47ヶ所、そのうちアスベストが含有している可能性があるものが約30ヶ所把握しているとのことです。かなり解体作業が進み、更地になったところも多く、建物の裏側にも回り込めるようになったため、確認作業が容易になったようです。
 残された建物の多くは東灘区のマンションと中央区の繁華街の雑居ビルで、どちらも区分所有者の意見の調整や権利関係が複雑で、解体の合意が得られず、取り残されている場合が多いようです。他の地域はこの秋までにはほとんどの解体が進むようですが、中央区の繁華街に関してはかなり長期化しそうな雲行きだそうです。アスベストの除去については三者契約でビルの持ち主、施工業者、神戸市とで話し合うため、きちんとした対策をとらせるよう今後も指導して行くとのことで、三宮の繁華街に関しては危険な解体作業がないか今後は定期的にパトロールし現場指導を強化するとの対応を説明してもらいました。
 神戸市が把握しているところでは、アスベスト除去工事が完了または協議中のところが約40棟、それに解体予定の約30棟の合計約70棟だそうです。当初の見積りより約2倍になっていますが、このうちのいくつかは私たちや市民の人からの通報等で吹き付けアスベストの存在が明らかになったことによるものだと思います。ネットワークを作って監視活動を継続した成果だと考えています。

 それに対して兵庫県の対応はかなり鈍いものです。6月末に担当の大気課に問い合わせたところ、吹き付けアスベストの存在を確認している建物は20数カ所、そのうち3ヶ所で除去工事が完了している。グレーが40数カ所あるというものでした。震災から6カ月も経っており、未だにグレーといわれるような建物が存在すること自体が行政の怠慢だと考えます。さらに、兵庫県の担当者は芦屋ハイツ翠ケ丘の説明会に解体業者の依頼で出席し、周辺住民からの強い希望で、解体業者とマンションの管理組合理事長がアスベスト含有建材の吹き付けアスベストに準ずる除去工事を約束したことに対し、そこまでやる必要性はないと決定に不満を表明し、出席者から非難されるという失態を演じています。県の担当者の後向きな対応は今後厳しく糾して行かなければいけないと考えています。

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アスベスト含有建材の撤去は今後の課題

 被災地域の環境中のアスベスト濃度が長期にわたり、全国平均よりも高いレベルを維持している原因としては吹き付けアスベストの飛散だけでは説明できないと考えています。
 確かに吹き付けアスベストは飛散しやすいため、きちんとした養生シートで建物を囲った後に、建物内を負圧にし、HEPAフィルターで集じんしながら作業を行なうということで、大がかりな工事になりますが、数年前に学校施設の除去が問題になった時点と比べ、専門業者も多くなり、きちんとした除去工事を行なう体制は十分あると思います。今回の震災による解体工事でも、専門業者が行なえば、それなりに対策はとられていると考えられます。
 問題は吹き付け材が発見されたにも関わらず、アスベスト除去工事を行なわずに解体された建物からの飛散と、アスベスト含有建材からの飛散ではないかと考えます。きちんとした除去工事が行なわれなかった建物の件数は不明でなんとも評価できないのが残念です。
 アスベスト含有建材はスレート瓦や天井材、内装材に使用されています。重機で粉々にする今回の解体作業では粉塵として飛散するのは当然のことです。防塵のために散水を指導しているといわれますが、実際の効果はわかりません。重機で粉砕された建材からのアスベスト飛散が、被災地のアスベスト汚染に相当寄与していると思います。そうでなければ県と市の発表している合わせて50棟程度のアスベスト除去工事のためにこれほど環境中のアスベスト濃度が上昇するとは考えられません。

 今回の電話相談でこのアスベスト含有建材の除去についてどうすればよいか問い合わせがありました。実際例を今後の参考に紹介します。芦屋ハイツ翠ケ丘は戸数約100戸の大きなマンションですが、今回の地震で被災し、解体されることになりました。解体作業による粉塵公害などに不安をもった住民の方が複数電話をかけてこられ、被災地アスネットのメンバーが工事内容の説明会に参加しました。あわせて、建物内を目視調査したところ、吹き付けアスベストについては確認されず、階段と管理人室の床にピータイル、廊下一部の天井にスレート板、トランクルームの間仕切りにスレート板が使用されていたので、試料を採取しました。X線回折で定性分析を実施したところクリソタイルの含有が確認されました。再度説明会を開催して、アスベスト含有建材は吹き付けアスベストに準じて養生シートをしたうえで負圧集じんしながら、手ばらしで撤去することを業者に約束させました。
 今後の対策としてアスベストの環境中への飛散を押さえるためには、アスベスト含有建材の撤去のためにも、きちんとした対策を講じるようにすべきだと考えます。戸の点については国や行政に強く要請していきたいと考えています。
 また、今回の地震の教訓として災害時、壊れたときに有害物や危険を発生するものは使用しない、普段から削減に努力することが大切だと知りました。復興に際して、アスベスト建材の使用禁止、ノンアス建材の使用奨励を行なうことが重要です。また、次の大地震に備えて、民間施設の吹き付けアスベストについては、国や行政が費用を援助して、除去工事を行なうことを奨励する対策を講じることが必要だと考えます。被災地アスネットとして今後全国にこの教訓を発信していきたいと考えています。

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(C) Jul. 1995, Shigeharu Nakachi

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