アスベスト飛散に注意を!
中地 重晴  &  温品 惇一


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【項目】

がれきの山をどうするのか
解体作業による粉塵被害
目につく吹き付けアスベスト
高濃度のアスベストを検出
アスベスト規制の強化
環境庁による測定と対策
アスベスト使用調査もせずに解体
急がれる大気汚染自動測定局の復旧
危険な野焼きは即時中止を


がれきの山をどうするのか

 今回の兵庫県南部大地震では倒壊した家屋やビル、道路や鉄道などの構造物のがれき、災害廃棄物の総量は当初1200万トンにのぼると見積られていましたが、最近の発表ではその2倍から3倍だと訂正されています。簡単には比較できませんが、家庭から排出される一般廃棄物は年間約5000万トンで、そのうち焼却したりして減量化し、約1/3の1500万トンが埋め立てられいますが、ほぼその量と同じか上回るぐらいになります。
 昨年のロサンゼルス大地震の時、日本の構造物は耐震性に自信があるといわれました。世界中のマスコミが今回の阪神大震災の被害の象徴として報道した阪神高速の橋脚が約1キロにわたって落下した国道43号線の現場は、約1週間徹夜の突貫作業で崩されてしまいました。また、神戸の中心街三宮周辺では戦前に建てられた古いビル(阪急三宮駅ビルや交通会館など)を中心に壊れ、解体作業が急ピッチに行なわれているところです。
 現在神戸の復興に向けて、倒壊した建物の解体が進められていますが、多くの問題点が浮き彫りになってきました。

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解体作業による粉塵被害

 17万棟以上の家屋が全半壊し、鉄筋のビルでも数千棟以上が崩壊し、使用不能になったと言われています。現在各地でその解体作業が進行中です。解体作業に伴って、相当量の粉塵やアスベストが飛散しており、労働者や住民の健康に悪影響を与える恐れがあり、心配です。
 今回の解体作業は通常の解体作業と異なり、非常に危険な状態で作業が行なわれていることが、特徴であると考えています。気がついた点をまとめてみました。
 一つには地震によって倒壊したため、余震で隣の建物に倒れかかったりしないように、解体作業の緊急性が最も重視されています。傾いたり、道路にはみ出したりしたために、「粉塵の飛散防止や遮音のためのシートを立てたり、作業者の安全のために足場を組むことができない」として、がれきの山の中にユンボやクレーンなどの重機が直接のぼり、危険な状態で解体作業が進められているのがほとんどです(写真1)。

写真1
がれきの山に重機が直接のぼり、危険な状態で解体作業が進められている (神戸市東灘区 02/17/95)

 次に通常の解体作業なら、中にある家財や事務機器、書類などを持ち出した後で、解体作業に入ります。今回は予期せぬ大地震で倒壊したため、貴重品や書類、家財などを持ち出すことができず、埋もれた状態のままのことが多いです。意図的に水をかけずに、貴重品を探しながら作業する場合も多いと聞いています。水をかけずに作業をするために、粉塵の飛散が助長されている状態です。
 当初は水道が断水し、水をかけられなかったケースもあったようです。しかし、震災直後でも阪急三宮駅ビルは散水しながら作業していました。ゼネコンや下請け業者の工夫でできる範囲の努力だと思います。
 また、この場合、マンションや雑居ビルではそこに住んでいた人たちが一日中作業現場のすぐそばで解体作業を見守っている光景をよく見かけます。家財や貴重品がでてくれば、自分や肉親のものかどうか確認することが行なわれています。ほとんどの人が防塵マスクを着用していません。粉塵やアスベストの害について知識もないまま、作業者と同じ程度に被曝してしまう人たちが多いのには特に注意を要することを強調しておきます。

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目につく吹き付けアスベスト

 2月5日、全国労働安全衛生センター連絡会議の古谷事務局長と天保山埠頭からメリケンパークまで高速船で渡り、元町、三宮から阪神青木駅まで歩いて、ビルの倒壊現場を観察して回りました。鉄骨がむき出しになっている所にアスベストが吹き付けられている建物もかなり目につきました。
 アスベストの吹き付けは60年代から多用され、75年に労働省によって原則的に禁止されました。しかし80年頃まではアスベスト代替品のロックウール(岩綿)にアスベストを含有して製造していました。また、現在でもアスベストの吹き付けが行なわれていると言う現場の声もあります。特に住宅金融公庫の融資の条件に吹き付けアスベストが構造基準に入っていた時期もあり、今回の大地震で倒壊した老朽化した建物には使用されている可能性が高いと思われます。
 神戸市の発表によると約2000棟のビルが倒壊し、75年までに建てられたビルは約500棟、そのうちアスベストが吹き付けられているのは100棟程度だと見積られています。しかし、数年前に東京都がアンケート調査した結果によると、都内の民間ビルの約50%に吹き付けアスベストが使用されていたことや吹き付け材中のアスベスト含有を調査した労働科学研究所のデータ(表1)からもわかるように実際はもっと多いように思います。

表1 施工年代別・場所別の石綿含有吹き付け材の割合
施工年教育施設など一般事務所など機械室など
〜6475.0%(3/4)100.0%(3/3)85.7%(6/7)85.7%(12/14)
65〜7487.6%(106/121)86.7%(13/15)89.3%(25/28)87.8%(144/164)
75〜7791.9%(34/37)30.8%(4/13)11.1%(1/9)66.1%(39/59)
78〜0.0%(0/6)0.0%(0/16)0.0%(0/8)0.0%(0/30)
花岡・伊藤・木村らによる「88年日本産衛生学会抄録」より

 筆者らは目視による確認と、倒壊したビルの鉄骨に吹き付けられたものを剥離してX線回折にかけて定性分析するなどの調査を行なっています。今までの経験から倒壊した建物が仮に約2000棟とするなら、最低500棟以上のビルで吹き付けアスベストがあるのではないかと筆者は見積っています。

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高濃度のアスベストを検出

 その後、2月18日にアスベストの中では最も有毒であるクロシドライト(青石綿)が吹き付けてあったマンションの解体作業現場でアスベスト粉塵濃度を測定しました。場所は神戸市東灘区の国道2号線田中交差点の近くで、国道に面して歩道を塞ぐように倒壊した建物の解体現場で、水もかけずに作業していました。敷地境界から約2m離れた歩道上で、一般の人が歩いているところで、東側と西側の2ヶ所でサンプリングしました。結果は大気1l(リットル)あたり160本と250本でした。この値は工場の敷地境界でのアスベスト排出基準値の16倍から25倍にあたります。作業環境中のクロシドライトの管理濃度と同じレベルで屋外作業としては非常に高濃度でした。作業者は防塵マスクも支給されずに作業していました。
 前述したようにこのマンションの住民がマスクもつけずに歩道上でずっと作業を見学し、アルバムや鞄などが見つかると自分のものか確認していました(写真2)。また、そばを一般の人たちがほこりを避けるように小走りに行き交い、これも問題だなと思いました。
 現在阪神地区では解体作業が順次進められています。あと1年から2年かかると言われています。広範囲に粉塵が飛散し、将来的な健康障害が問題になると考えられます。けっして、一時的なものと片付けられない長期間だと筆者は考えます。特に子どもたちへの影響を考えると防塵マスクをするなどのなんらかの対策が必要です。

写真2
マスクもつけずに作業を見守るマンションの住民
(神戸市東灘区 02/18/95)

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アスベスト規制の強化

 解体作業を行なう場合、事前にアスベストの有無を調査し、アスベストがあれば、「アスベスト作業中」の立て看板などの危険表示をし、作業者がアスベストを吸い込まないように資格を持つ作業主任者が監督し、検定済みの防塵マスクを着用するなどの対策が労働安全衛生規則で義務づけられています。
 労働安全衛生規則が本年4月1日から改正され、クロシドライトとアモサイトは製造禁止になりました。また、アスベスト含有製品の定義が5%含有から1%含有に引き下げられました。クリソタイルの使用量が全体の90%を越えている現状からみれば、欧米各国の原則禁止あるいは使用量激減という規制にはまだまだほど遠いものですが、若干の規制強化が図られました。
 それに伴って、建物の解体・修理等の作業を行なう場合、アスベスト含有建材等についても使用状況の事前調査と記録が明確に義務づけられました。さらに6月1日からは吹き付けアスベストを除去する場合には事前に労働基準監督署に工事計画を届け出ることが義務づけられました。

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環境庁による測定と対策

 環境庁は2月初めに、大阪、京都の府市の研究機関の協力を得て大気中の有害物の環境測定を行ないました。その結果、アスベスト以外の有害物については年変動の範囲で問題ないと、早々と安全宣言をしてしまいました。
 アスベストについては阪神間50ヶ所で測定した結果、神戸市中央区のビル解体現場から約5mの地点で、11.2本/lと排出基準値を上回る濃度で検出されました。
 東京都内のアスベスト濃度は平均0.1本/lですが、西宮市から神戸市などにかけての35ヶ所で0.5本/lを超え、解体現場に近い西宮市の中心街で4.8本/l、解体現場近くではないが神戸市中央区の中心街では4.9本/lと東京都の約50倍に達しています(図1)。
 環境庁の測定結果と、最近の全国モニタリング結果(93年)とを比較すれば、数倍高い濃度になります。アスベストの有害性が問題になる以前の10年前の85年の結果とはほぼ同じレベルです。
 アスベストの発がん性には「安全な濃度」はなく、濃度が高くなれば発がんの可能性も大きくなります。現在起こっている事態は深刻だと思います。
 環境庁も「一層アスベスト対策の徹底を図る必要がある」として、2月23日に8省庁による石綿対策関係省庁連絡会議を開催し、解体前の吹き付けアスベスト除去、飛散防止剤の使用などの対策の徹底を改めて通知しました。

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アスベスト使用調査もせずに解体

 しかし3月下旬になっても、この通知はほとんど守られていないようです。神戸市の中心街では道路に面したところではシートで囲い、散水しながら解体作業が進められているところもあります。これはあくまでも粉塵の飛散対策として行なわれているものです。解体作業にはいる前にアスベストの有無さえを調べておらず、吹き付けアスベストの除去工事を行なった解体現場は1件も見あたりません。神戸市長田区や西宮市などの地域ではシートの囲いもなく、散水もせずに解体作業が進んでいるのが目につきます。
 今回の場合、倒壊の危険性や、国・自治体が支払う解体・撤去費用にアスベスト対策費が盛り込まれていないこともあって、解体作業に伴うアスベストの飛散は野放し状態になっているのが大きな特徴だと言えます。今のところアスベストを吸引しないために、発塵防止のために飛散防止材を散布したり、水をかけることの他には、防塵マスクを着用することが唯一の個人的手段という状態になっています。
 アスベストの飛散をこのまま放置すれば、将来的に阪神地域の住民に肺癌や悪性中皮腫が多発するなどの健康障害に結びつくのは確実です。特に子供たちへの影響には注意を要する必要があります。このまま作業が進められることは許されません。

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急がれる大気汚染自動測定局の復旧

 また、今回の環境庁の調査では浮遊粉塵濃度が測定されていないのも問題です。というのは、通常は大気汚染物質についてはNOxやSOx、浮遊粉塵などは自動測定局で24時間監視されています。このデータがまとめられて環境白書で発表されています。ところが、今回の大地震で自動測定器が壊れてしまって、測定されていない状態が続いています。このまま行けば震災以後、被災地の数カ月間の大気汚染データは観測されずじまいになります。今後震災による健康障害を疫学的に検討しようとしても基礎データが存在せず、検討できない事態になると思われます。逆に言えば、震災による健康被害のために都合の悪いデータ隠しをすでに兵庫県と神戸市がやっていると言っても過言ではありません。
 復旧作業の優先順位としても大気汚染の自動測定局の再開は率先して行なうことが行政の責務だと筆者は強調しておきたい。

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危険な野焼きは即時中止を

 倒壊した木造家屋の解体作業ででるがれきについては埋め立て容量を減らすために、野焼きが各地で行なわれています(写真3)。廃棄物処理法では一般廃棄物の野焼きは禁止されており、即刻中止すべきであると思います。
 たとえば、MCA処理と呼ばれる木材の防腐処理のために砒素や六価クロムなどの重金属が使用されたり、白蟻駆除のために有機塩素系の農薬が残留していたりする木材ががれきになり焼却されています。当然周辺への有害物質の飛散の可能性があります。
 また、プラスチック類の燃焼でプラスチック類に含まれるホルムアルデヒドや塩化水素などの有毒ガスが発生したり、ダイオキシンが生成される可能性が高く、周辺環境や住民への健康影響が大きいと考えます。単純に比較できませんが、香川県豊島の産廃不法投棄事件の実態調査でシュレッダーダストや製紙汚泥などを野焼きしたところから、清掃工場の電気集塵機灰と同レベルの高濃度のダイオキシンが検出された例もあり、今後とも注意が必要だと考えます。危険ながれきの野焼きは今すぐ中止すべきだと思います。

写真3
野焼きで黒煙が上がる
(02/18/95)

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(C) Mar.-Jun. 1995, Shigeharu Nakachi & Jun'ichi Nukushina

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