住民との対話
被災地のアスベスト対策を考えるネットワーク


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以下は、1996年5月27日、神戸市内で開かれたシンポジウム「被災地 のアスベスト汚染を考える」にて、参加した被災地住民とパネラーたちとの 間で交わされた質疑応答のおもな部分を採録したものです。なお、パネラー は次のとおり。


【項目】

私の住んでいる所は?
水は?
測定できないほど小さなアスベストは?
アスベスト監視官
リスクアセスメントと私


私の住んでいる所は?

〔質問〕
 私はポートアイランドに住んでいるんですけれども、あそこは倒壊したビルはないんですが、大丈夫でしょうか?
 子どもが毎日、三宮経由で通学しているので、なるべく地下にもぐりなさいと言っているんですが、地上と地下の違いはあるんですか?

〔中地〕
 ポートアイランドの中央病院の隣には環境保健研究所という神戸市の研究施設がありまして、そこでアスベスト濃度を測っています。その数値は三宮に比べれば低いのは確かなんですが、全国平均と比べたら高く、若干マシかなといったところです。ただ、2回とか3回の調査結果しかありませんから、それだけ見て一喜一憂するのは、間違っていると思います。もう少し長く何回も調査した結果から判断するべきじゃないでしょうか。
 地下、あるいは強制換気の集中冷暖房しているようなビルでは、『建築基準法』で2/3には外の空気を取り入れなさいとなっています。ですから、ちょっとはマシですけど、外の空気が入ってきているので、基本的には同じだと考えた方がいいと思います。

〔質問〕
 被災の周辺地域だけではなく、もっと離れた所のアスベストの量はどうなんですか? 僕は垂水区の布施畑のそばなんですけど、そこはどのくらいの量になっているんですか?

〔中地〕
 埃っぽい所にアスベストが存在すると考えてもらうといいでしょう。きょうはおもに吹き付けアスベストのことを言いましたが、アスベストの9割ぐらいは建材に使われております。建材として、石膏ボードとか内装材に使われていて、通常時はほとんど飛散はしませんが、大工さんが寸法を合わせるのに切断するときとか、今回のように家屋を壊すときとかは飛散すると考えた方がいいと思います。また、布施畑のガレキの処分場に通じるトラックの沿道はかなり濃度は高くなっているんじゃないかと予想はできます。ただ、だれもそういう調査をしていませんので、これからきっちりとその辺についても調査する必要があります。
 神戸市は、小学校40ヵ所での調査を含めて今年はかなり広範囲に環境測定を計画し予算化されたのでやるということが、先述の「基本方針」でおっしゃてますので、おいおい調査結果は出てくるのではないかと思います。ただ、市民レベルでの監視活動も必要ですので、私たちも腰を落ち着けて、協力者の手を借りて、調査活動をやりたいと思います。

〔質問〕
 空気清浄機は有効ですか?

〔中地〕
 空気清浄機にはいろいろな種類があって、私もあまり調べていないので、よくわからないんですが、HEPAフィルターというのがあります。アスベストなどの除去工事に使うような非常に細かいものをカットするタイプで、それでしたら効果はあると思います。建物の構造上、必ず空気清浄機を通って供給されるのではなく、隙間から空気が入ってくるのでしたら、意味がないと思います。あと、湿式といって、空気を一度水の層に通して供給するようなタイプでしたら、アスベストはある程度落ちるような気がします。とにかく、調査をやっておりませんので、もし、家を開放していただけるのでしたら、外と中と違うかどうかお調べます。そこまで神経質にならなくてもいいんじゃないかなとも思います。

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水は?

〔質問〕
 大気中のアスベストの話ばかりでしたが、飛散した場合、貯水池にもいくわけですよね。そうすると、水の中にも流れ込むと思うんです。また、水道管もアスベストを使っているはずですけど、そういう水からくるアスベストの被害についてデータはないんですか?

〔中地〕
 神戸の2/3くらい、芦屋と西宮のほとんどの地域の水源は琵琶湖です。琵琶湖の水を柴島のすぐそばでとって、阪神水道公団が送っておりますから、まず水道水の中にはアスベストは入ってこないだろうと思ってください。
 確かに、アスベストは石綿セメント管として、以前にヒューム管という茶色っぽいコンリートの管で水道管に使われていたことがあります。ところが交通量が激しくなって、よく破損するので、20年くらい前から使用はされていません。古い管も順次鉄の管に替わってきています。過去2、3回、水道水中のアスベストを測ろうとチャレンジしたことがありましたが、障害が起こるとされている5μmという長い繊維はほとんどあませんでした。もっと細かい繊維については、私は電子顕微鏡を持っていないので、測っておりませんけど、目に見える範囲では、水道水中のアスベストは問題ないと思ってもっていいと思います。

〔質問〕
 水道水にはアスベストはごく少量しか入っていないという話ですが、某企業のデータによると、やっぱり入っていました。水は一生からだに取り入れていかなければならないものですから、アスベストに発がん性の可能性があるのなら、水に対してどうのように処したらいいのでしょうか?

〔中地〕
 水の中の発がん物質ということなら、アスベストよりたくさん入っているトリハロメタンの方が問題です。これは塩素消毒する際にできるわけですが、それを防ぐのと同じように、できるだけ目の細かいフィルターを付けるとか、浄水器を使うとか、ミネラルウォーターにするとか、個人的な防御はできると思います。
 ただ、繰り返しになりますが、今のところ、水道水中のアスベストよりも大気中のアスベストを注意をした方が総合的にはいいと思います。

〔平野〕
 今のところ、飲み水のアスベストの発がん性に関しては具体的なデータはありません。
 ニューヨークでも水道水にかなりアスベストがあるということなんですけれど、その経口被害についてははっきりしたデータがない。東京もいっぱい出ていまして、とくにウチの方の金町浄水場は水道が古いため、他の地区の何倍もなんです。ただし飲んでも排泄されますから、問題は吸収ですよね。どれだけ胃とか腸とかから吸収されるかということについてはまだデータがない。これからの研究だと思います。

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測定できないほど小さなアスベストは?

〔質問〕
 僕は今まで、大気中のアスベスト濃度*本/lというのは 0.1μmからの大きさのものを含んでいると思っていたんですが、これまでの話では0.1μmなんていうのは電子顕微鏡を使わないと見れないということなんで、もっと大きなものしか測っていないわけですね。一方、医学的な見地からは0.1μmくらいでも害だという。これは片手落ちではないですか? あるいは0.1μmのアスベストが全体の○%くらいだから、そんなに小ちゃいのは気にすることないんだよ、と言えるかもしれませんが。

〔中地〕
 環境庁が調査する際、光学顕微鏡で見る場合のアスベスト繊維の定義は、長さが5μm以上で、幅と長さの比が1:3以上の繊維状のものとなっています。アスベスト繊維は1本1本ではなく、繊維束の形状になっていることが多いので、細かいのをどういうふうに見るかは、温品さんにお答えしていただきますが、まあ、そういう形で計測しているのが現状です。
 環境庁は、4cm程度の濾紙を50視野数えなさいとしていますが、電子顕微鏡では視野がものすごく狭くなるので、もっとたくさんの視野を数えないときちんとしたアスベスト濃度は出てきません。それは今の日本の測定機関の能力を超えてしまうので、公定法では電子顕微鏡は使っていない、というのが真実です。

〔温品〕
 アスベストの長さの調査、どのくらいの長さのものがどのくらいの数あるかという調査の対象はアスベスト工場ですので、それが一般大気中に厳密にあてはまるかどうかは別の話として、おおまかな話として聞いてください。
 電子顕微鏡で数えられる範囲のアスベストを全部測り、その分母をとりますと、5μm以上というのは、全体の5%ぐらいです。じゃあ、5μm以下の短いものは発がん性はないのかということに関しては、あんまりちゃんとしたデータはないんです。一般的には、5μm以下は発がん性がほとんどないとか、弱いとかいわれているんですが、5μm以上の長さのものの20倍くらいある、そんなにたくさんあるものが全く発がん性がないかどうかというと、そこに関してははっきりしたデータがない。前に、NHKのテレビでやっていましたが、短い繊維のアスベストを動物に吸入すると、がんまでは見ていないんですが、突然変異の率が増えるというデータもあって、短いものは安全だとはまだ言い切れないと思います。

〔平野〕
 最近経験した症例なんですが、ある大工さんが肺がんで去年、国立がんセンターで亡くなりました。56、7歳でしたか。労働組合員でしたから、労災にならないだろうかというので、国立がんセンターの先生に相談して、解剖してもらいました。その解剖所見が出てきたんですが、「アスベストはない」「アスベスト肺もない」と。これはもう労災はダメかなと思っていたんですが、奥さんが諦め切れないので、アメリカのマウントサイナイ医科大学というアスベストでは世界的権威の先生がおられる大学に、亡くなった方の肺の組織を2例送ったんです。そこはアスベストの専門ですから、特別な処理の仕方−−低温でうまく肺を焼いてアスベストを取り出して、電子顕微鏡で見る−−で調べると、大量のアスベストがあった。みんな小さいんです。 0.*μm。電子顕微鏡で見ないと見れない。そんな細い小さいアスベストがいっぱい出てきた。
 おととしにも同じようなケースがありまして、やはりアスベストの作業をして、国立第二病院で肺炎で亡くなって、やっぱり解剖で出なくて、アメリカに送ったら発見された。
 日本の普通の顕微鏡や病理の医者が見れないような、ほんとうは見なくちゃいけないんですけど、見れないようなものが電子顕微鏡では出てくる。しかもそれが肺がんの患者さんにあるということは、おそらく細い繊維も有害性があるといって間違いないだろう。
 アスベストはどういう作用で発がんを起こすのかまだよくわかっていません。いろいろ説があって、細くて尖ったものほど発がん性があるというのもあります。具体的な症例では、長い繊維より細い小さい繊維の方が多い。ですから、 0.*μmという小さい繊維も安心できないと思います。

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アスベスト監視官

〔質問〕
 行政に対する具体的な提案として検討してほしいんですけれども、民間のアスベスト監視官みたいなボランティアを何10人も県や市が任命して、「アスベスト工事中」と張り出させたり、工事をストップしたり、覆いを被せさせたり、そういう権限を与えるというのはどうでしょうか。よく西部劇でも、普段は保安官は1人なんですけど、いざ、悪漢が出てくると、よけえ星作って、みんなに配って、「君たちに権限を与えるから、みんなで守ろう」。今は、エマージェンシー(非常時)です。今の行政の職員の数だけで足りるはずがないんです。それを職員の数だけでやろうとするから、人間が足んない、手が足んない、とか言って、10年、20年、後に心配を残すような、とんでもないことになっているんですから、ふさわしい民間人に権限を与える、アスベスト監視官のようなものを是非、急いで作ってもらうように提案したらと思います。(拍手)

〔中地〕
 是非とも要望したいと思います。
 神戸市に関しては、労働基準監督署も労災防止指導員という形で、労働組合推薦の委員をパトロールに使ったりしているんで、そういう既存のシステムを使って、何らかの形でアスベストの解体工事に対する監視官みたいなのを作れないか追求したいと思います。

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リスクアセスメントと私

〔質問〕
 配布資料には、「解体現場に近づく可能性がある場合には、マスクを着用することを勧めます」というご意見があります。また一方で、屋内は安全なのかというと、いやそうではない、「クーラーの吸気フィルターではアスベストを除去することはできません」という。外気に触れるときは、「アスベストに気をつけなさい」と私は子どもにそう言っておりました。子どもは東灘区の最も被害の大きかった小学校に通っているんですが、「校舎の中でもマスクをしなさい。窓が開いているかぎりはしなさい」と言っていたんですが、まさか家の中では、と思っていたんですが。しかしながら、これを読ませていただくかぎりは、家の中にいても、窓を開けなくても、換気扇ということもありますし、全くシェルターのように密室状態でいられるということはない以上、いずれは中の濃度は均一になるじゃないかと思うわけです。そうしますと、マスクをすることが果たしてどの程度・・・、もちろん、効果はあると思います、思いますので、子どもにやらせていますし、私も実施しておりますが。そういうことが1つ。
 それから、被災地はアスベスト濃度が高い。しかしながら周辺地域ではやや低い。といって、お医者様の話では、薄い濃度でも悪性中皮腫の心配がある。ということであれば、濃度に「安全な濃度は全くない」。とすれば、屋外は心配、マスクをしていればともかく、室内でも24時間マスクをしていなければならない、実はそうなんではなかろうか。ということと、一方では、行政の対応は非常に遅い。遅い、遅いと言っているうちに、終わってしまうんじゃないかと思うんですよね。2年間くらいすっと。
 ということは、ずばり質問なんですけれども、東灘区の非常に被害の大きかった小学校の近辺のマンションの1階に住んでおります。外出時には必ず防塵マスクを着用するが、室内にいる時ははずしておく。それで3年間住み続けた場合、今までのデータから、何年間高濃度に、あるいは何年間低濃度に接したことになるのか、いったいどのような被害が予測されるか、もし、お答えが可能であれば、少しでもお教え願いたいんですが。

〔中地〕
 これはリスクアセスメントなんで、実際のデータではないんですが、アメリカの環境保護庁(EPA)が10年ほど前に「学校施設の吹き付けアスベストの除去しなければいけない」と指導した根拠になった評価をご紹介します。
 10歳の子どもがアスベスト濃度1本/l の教室で、5年間、だいたい年間 200日くらい、1日7時間授業を受けたとして、10万人に対して1人くらい肺がん、または悪性中皮腫が出るというデータがあります。いくつかのアメリカの研究機関もだいたい同じような評価をして、10万人のうち1人から2人くらいの間の発がん率だとしています。
 神戸の場合、1本/lで濃度と考えていいわけですから、1年間×365日×24時間という計算をすれば、5年間×200日×7時間とほとんど変わらないレベルとして置き換えることができると思います。
 ただ、解体現場の近くは1、2本/lというものではなくて、10倍から場合によっては 100倍くらいの値が出るわけですから、そういう所を通れば、一時的に高濃度のアスベスト曝露を受ける可能性があります。よって、そういう危険は避けるべきではないかなと思っております。

〔クリスティーヌ〕
 どうも、数字があればもういい、という感じがあるんですが。
 こうすれば、何万人のなかの1人がこうなりますよと言われても、それがたまたまお宅のお子さんだったらどうするんですか? そういうことにならないように、電話料金がどんなにかかろうが、しつこく電話をかけまくるんですよ。市役所に。教育委員会に。こんなにかかってくるなら、何とかしなくちゃならないと思わせるくらいほどに、皆様方が力を合わせてお電話する。または足を運んで、子どもでも連れて、「どうするんですか、子のたちを!」と見せて、何とかしなければならないという気持ちに向こうがなるまで、しつこくやるしかないと私は思うんですよね。必ず、データを見せてきますよ。ほら、1l中これしかないじゃないですかと。じゃあ、その1本が私の肺の中に入って、その1本で私ががんになったら、どうするんですか。ただの統計になってはいけないんです。

〔平野〕
 おふたり方のいう通りだと思います。ただ被災地ではリスクは高くなるのは確かだし、これから少しは危険な空気を吸うことも間違いないわけで、今後、どう対策していくのかという話なんです。
 いわゆる労働者ですと、健康診断をやるわけです。建築労働者の労働組合と協力しながら、アスベストをいっぱい吸い込んだ労働者に対しては、毎年、定期健康診断として、レントゲン写真を撮ったり、喀痰の検査で肺がんの早期発見に努めています。クロムの場合は、東京都の衛生局がクロム健康相談というのを毎年やっています。そこで地域住民の健康相談を受けて、さらに精密検査が必要ならば、あるいは本人が希望すれば、私たちの病院で無料で検査を受けられるというシステムになっているんです。
 ただ、肺がんの場合、レントゲンを撮らないといけないんです。10歳の子どもさんに毎年レントゲンを撮っちゃうと、逆にレントゲンも発がん性があるから毎年レントゲンを撮るわけにはいきません。かといって、子どもさんは痰も出るわけないんだから、痰の検査もできない。どうしたらいいんだろうと思っているんですが。そこらへんの医学的な対策も必要だと思います。肺がんの潜伏期間はだいたい20年くらい、中皮腫になれば、もう少し後になるんですが、今、10歳のお子さんですと、30歳くらいから対策を考えなくちゃいけないのかなと思います。

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(C) May 1995, Hanshin ASNET

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