マスクプロジェクトとはどんなものか?
長田ボランティアルーム  岡本 泰典


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【項目】

あなたのお子さん大丈夫ですか?
マスクの必要性と効果
身を守る情報と知識の提供
マスクを入手できる環境作り
終わりに


あなたのお子さん大丈夫ですか?

 長田の街でこの見出しのビラをマスクと一緒に配りました。直接的なこの 言葉が功を奏したか、住民の方、特に小中学生の親御さんからアスベストに 関する問い合わせが多くなりました。
 被災地では非常に急ピッチな解体作業のため、膨大な量の粉塵が街中に蔓 延し、歩いているだけでのどが痛くなる程でした。気管支系に持病のあった ぜんそく患者・公害認定患者の方が死亡したといった報道もありました。そ して何よりも空気中に発がん物質であるアスベストが高濃度に飛散している 問題が深刻化してきました。特に子供たちへの影響が懸念されます。
 そんな中で2月初旬、長田ボランティアルームに、この汚れた空気から少 しでも住民の方々の体を守ろう、守る手助けをしようと、マスクプロジェク トが発足しました。基本方針として3つの大きな柱をたて、各々の団体の得 得意分野を生かして実行しました。

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マスクの必要性と効果

 3本柱の1つ目は住民に対するマスク啓蒙運動として、マスクの必要性・ 緊急性とその効果を訴えることです。マスクを着用する習慣を持ってもらう ため、マスコミを通じてマスクを全国から募集し、集まったものをアスベス トへの注意を促したビラと抱き合わせて、避難所や小中学校、幼稚園や保育 所に配布しました。毎回各所の生徒数や避難者数、どれくらいの人がマスク をつけているかを調査し、対策本部や教職員の方々の協力を求めながら行な いました。駅前や商店街での街頭配布も続けながら、被災地のアスベストの 現状と危険性が住民の皆さんに伝わるよう努めました。目立って粉塵のひど い解体現場が見つかれば即その地域に向かい、周辺一帯にいる住民や近くを 通る人にマスクを配布することもありました。最終的に配布したマスクの総 数は5万以上になります。
 マスクによる自己防衛は長期に及ぶ事ですし、住民自身が取り組まなけれ ばなりません。しかし私達はマスクプロジェクト開始当初からボランティア の行き届く範囲、マスクの数量には限りがある事を感じていましたし、安易 な配布はともすれば「マスクをつけさえすれば安全だ」という誤った印象を 与えかねないので、あくまでも「マスクを付けなければならないという意識」 を届けるという姿勢を保ちました。

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身を守る情報と知識の提供

Fig.2  方針の2つ目は事実やデータに基づく正確な情報と身を守るための知識と を提供する事です。被災地ではアスベストに関する知識が圧倒的に不足して いました。被災地のアスベスト問題が何度か報道されましたが、アスベスト が実際どんなものか、ほとんど知られていませんでした。ボランティアが供 給できるマスクには限界がありますから、基本的にはマスクは住民の方々自 身で入手していただかなければならないと考えていたので、そのためにも情 報提供は重要な課題でした。
 情報媒体として、震災後ピースボートが発行していたミニコミ誌を活用し ました。この中で継続的にアスベスト問題の特集を組んでマスクの着用を訴 え、それに平行して区内の粉塵のひどい箇所を示した「粉塵調査マップ」を 毎週掲載したり、どんな種類の防塵マスクがあるのか、アスベストに効果の あるマスクはどんな物か、どこで売っているかなど、実際に必要とされる情 報を直に提供し続けています。また避難所や小中学校の運営スタッフに詳し い資料を届けて、避難している人や生徒さんにできるだけ啓蒙してくれるよ うお願いしました。「保健所だより」でマスク着用を呼びかけたり窓口に防 塵マスクを置くなど、保健所にも協力していただきました。

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マスクを入手できる環境作り

 3本柱の最後は、住民が防塵マスクを簡単に手に入れられる環境を作るた めの活動です。
 防塵マスクは本来、粉塵作業などの従事者専用の物で、一般の人々には無 縁でした。取り扱っている店も非常に少なく、すぐには手に入らない状態だ ったので、長田の街にもっとマスクが行き渡るよう、保健所と連名でマスク メーカーや小売店に要望しました。
 新聞社などにもアスベストの性質や現在の飛散状況など細かい知識を掲載 するよう求め、できるだけ多くの方にマスクの必要性を感じてもらおうと手 をつくしました。

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終わりに

 以上が長田区でのマスクプロジェクトの概要です。私達が最も気をつけた ことは、ただマスクを配るだけで終わるのではなく、なぜマスクが必要なの かを住民の方に理解してもらうことでした。アスベストはボランティアにと っても切実な問題でしたから、ボランティア内でも勉強会を開いたり、外出 時にはマスク着用を義務づけるなどして身を守るようにしました。
 私達の活動は深刻なアスベスト問題の一時凌ぎに過ぎません。今後は住民 の方々が一人一人、自分自身のために防衛し続けていく必要があります。
 そしてもうこれ以上汚染を悪化させぬように、解体現場の監督強化や吹き つけアスベストの飛散防止などの発生源対策を徹底していくのがこれからの 課題でしょう。
 神戸の空気が一刻も早く、安心して生活できるようなものになるように願 っています。

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(C) Apr.1995, Yasunori Okamoto

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