解体時アスベスト規制強化の実態は?
アスベスト根絶ネットワーク


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【項目】

ビル解体のアスベスト規制が強化
被災地の濃度は下げ止まり
大手ゼネコンの6割が違反
アスベスト吹きつけビル数は不明
9現場中、7現場でアスベスト調査・記録に手抜き
アスベスト調査・記録違反に勧告書
吹きつけアスベスト除去工事でアスベストが飛散していた
歩道に解体現場の水を降らす熊谷組
「ない」はずの吹きつけアスベストが出てきた――厚生省の病院解体工事
アスベスト建材の除去方法はあいまい――建設省
吹きつけアスベストを一部見落とし/建材も負圧で除去――東京都
アスベストだらけのホテルニュージャパンは説明を拒否
解体工事の実態はまだヤブの中


ビル解体のアスベスト規制が強化

 昨年4月、労働安全衛生法に基づく特定化学物質等障害予防規則(特化則)が改正され、ビル解体のアスベスト規制が強化された。特化則第38条の10が新設され、建物の解体・改修に際し、事前に吹きつけアスベストだけでなく建材等も含め、すべてのアスベスト製品の使用状況を調査し記録することが義務付けられた(表1)。
 解体・改修するビルにアスベスト製品が使用されている場合、吹きつけアスベストと同様、事前に除去しなければならない。その際の飛散防止対策についても労働省は従来の「湿潤化・手ばらし」を改め、「原則として負圧・除じん装置を稼働させながら除去するべき」としている。昨年6月から、アスベストが吹きつけられているビルの解体工事は労基署への届出も義務付けられている。
 これらの規制の実施状況を被災地と東京で調査した結果を報告する。


表1 石綿に関して事業者が講ずるべき主な労働衛生対策のまとめ

「石綿のあらまし」 (労働省)8ページ
6 石綿粉じん発散防止設備
 石綿粉じんが発散する屋内作業場においては、原則として、石綿粉じんの散源を密閉する設備又は除じん装置付の局所排気装置を設け、作業中は有効に稼働させなければなりません。
 また、1年以内ごとに1回、定期に自主検査を行うほか、改造、修理などを行った後には点検を行わなければなりません。

13 建築物の解体等の作業における石綿等の使用状況の調査
 建築物の解体等の作業を行うときは、あらかじめ、石綿等(アモサイト、クロシドライト及びその含有物を含みます。)が使用されている箇所及び使用の状況を設計図書等により調査し、その結果を記録しておかなければなりません。

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被災地の濃度は下げ止まり

Fig.1  昨年12月22日に環境庁が発表した測定結果によると、被災地の大気中のアスベスト濃度の幾何平均値は、2〜3月に比べれば半減しているものの、8〜10月にかけてほとんど改善されていない。依然として全国平均の3倍以上、東京の5倍以上に達している(図1)。
 神戸市が市内の小中学校で測定した濃度は、環境庁発表より高い。

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大手ゼネコンの6割が違反

 被災地では吹きつけアスベストさえ除去しないままビルを解体する例が相次いだ。公費で解体するビルの吹きつけアスベスト除去費は、昨年3月末から公費で支払われるようになったが、それでもなお、吹きつけアスベストを除去しない違法解体が相次ぎ、アスベスト汚染に市民からの指摘・問い合わせが続出した。あわてた神戸市、兵庫労基局、兵庫県は、7月20日に大手ゼネコンを集めてアスベスト講習会を開催し、兵庫労基局はアスベスト対策に関するアンケート調査を行なった。
 その結果は惨憺たるものだった(表2)。特化則で義務付けられているアスベストの事前調査を実施していると回答した大手ゼネコンはわずか4割。無回答も含め6割が実施していないと思われる。除去工事の届出、防じんマスク等の実施率はもっと低い。

表2 「石綿の労働衛生管理に関するアンケート」結果
1995年7〜8月 兵庫労基局
質 問 事 項はいいいえ無回答
建築物の解体等の作業を行うときは、あらかじめ、その
建築物について石綿が使用されている箇所及び状況に
ついて事前調査を行っていますか。
2334
平成7年6月1日以降着工した石綿の除去工事について、
所轄労働監督署に計画届けを提出していますか。
47
石綿が使用された建築物を解体する際に、作業者に呼吸用
保護具、作業衣を着用させていますか。
1443
アンケート依頼 109事業場/回収 58事業場/回収率 53%

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アスベスト吹きつけビル数は不明

 吹きつけアスベストをきちんと除去して解体された神戸市内のビルは昨年9月末現在、わずか42件(表3)である。では、アスベスト吹きつけビルは何棟解体されたのか?
 3月に神戸市は解体予定ビルを調査したが、1,224棟のうち1,180棟は吹きつけの有無も不明だった。6月の調査でも377棟のうち216棟が吹きつけの有無不明となっている。
 私たちは2月以来、被災地のアスベスト対策を考えるネットワークと共同で解体ビルの吹きつけアスベストを調査し、神戸市、兵庫労基局等に連絡してきた。神戸市の発表によると、私たちと神戸市が見つけたズサン解体は15件にのぼっている(表3)。これは氷山の一角だろう。

表3 アスベスト除去工事の実施状況 平成7年9月末現在
分 類件数
事前調査によりアスベストの使用を確認し、市と協議のうえ解体体前にアスベスト除去を実施42
工事着手後にアスベストの使用が発見され、一時工事を中止し、市との協議を行いアスベストを除去
アスベストが使用されているにもかかわず、市と協議せず工事着手し、適切な対策を実施しなかったもの 市の指導により工事を中止し、それ以降については、市との協議によりアスベスト除去を実施したもの
市の指導により工事を中止したが、ほぼ解体が終了しており、市の指導によりアスベスト廃棄物の処分のみ実施したもの
市が発見した段階で既に解体・撤去が終了していたもの

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9現場中、7現場でアスベスト調査・記録に手抜き

 昨年12月11日から3日間、私たちは被災地のアスベスト対策を考えるネットワークと共に被災地のビル解体現場を調査した。特化則第38条の10の新設をふまえ、吹きつけアスベストだけでなくすべてのアスベスト製品の調査・記録およびアスベスト飛散防止対策がとられているかどうか、解体工事の元請けの現場監督に聞き取り調査を行なった(表4)。
 15現場のうち、9現場で具体的な話を聞くことができた。このうち、7現場でアスベスト調査・記録、対策が不十分だった。竹中工務店、大林組、フジタ、間組などの大手ゼネコンでもピータイル、岩綿吸音板などのアスベストの有無を調査していなかった。調査したという場合も、その記録が残されていなかった。大林組神戸支店は昨年5月30日の話合いで「解体時のアスベスト建材調査は実施していない」と公言していたが、神戸デパート解体工事で具体的な違反事実が明らかになった。
 15現場のうち5現場では「労災保険関係成立表」が掲示されておらず、元請け業者も不明で聞き取り調査はできなかった。また雲井ビルを解体していた熊谷組は「アスベストの吹きつけも建材もない」と主張したが、具体的に説明もせず、真偽のほどは定かでない。
 私たちは12月13日、この調査結果を兵庫労基局に提出し、アスベストの調査・記録と飛散防止対策の指導の徹底を強く申し入れた。

表4 ビル解体現場調査結果 95年12月11日〜13日(*は11月10日)
ビルの名称所 在 地元請け企業問 題 点
深江駅前ビル*東灘区深江本町3ー9ー1間 組石綿製品調査せず
労基署の勧告
大信ビル中央区下山手通3ー2ー13大木工務店石綿製品調査せず
海岸ビル中央区海岸通3竹中工務店石綿製品未調査
森本倉庫
三宮ビル南館
 西館
中央区御幸通7 竹中工務店
石綿はアスク
1)岩綿吸音板の石綿未調査
2)吹付石綿除去中の室内測定せず
3)養生撤去前の測定せず
 (計画書ではやるはず)
神戸デパート長田区腕塚5ー5ー12大林組
フジタ
1)石綿製品未調査
2)除去中の石綿洩れの疑いあり
3)室内の石綿測定せず
4)養生撤去前の測定せず
JR鷹取寮長田区大池町5大鉄工業石綿製品調査の記録なし
オリエンタルホテル中央区京町25竹中工務店
イチケン
石綿調査の記録の有無は不明
ユニバーサルマンション中央区下山手通3ー10ー5 ナカノコーポレーション吹付石綿は除去
建材等は調査せず
雲井ビル中央区雲井通2熊谷組 1)石綿製品なしというが、詳細不明
2)朝顔養生せず、歩道に水が降る
バラライカビル中央区北長狭通1ー10ー3三井建設?聞き取り調査できず
喫茶BON中央区三宮町1ー3ー5カジタ?聞き取り調査できず
エンゼルビル中央区北長狭通4ー2聞き取り調査できず
ツインズ元町ビル中央区北長狭通4ー2聞き取り調査できず
三宮セントラルホテル中央区布引町4ー2聞き取り調査できず
芦屋第7コーポラス芦屋市大原20−22西本建設 吹付石綿あり
建材等調査中

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アスベスト調査・記録違反に勧告書

 表4の最初にある「深江駅前ビル」では、昨年11月の段階ですでに、ピータイルがあるのにアスベスト調査をしないまま解体工事が行なわれていた。私たちが兵庫労基局に連絡した結果、西宮労基署が現場を臨検し、元請けの間組(下請けは堀之内)に対し、特化則第38条の10(アスベスト調査・記録)違反に関して文書で勧告したという。
 今回指摘した違反事例について、労基局がまず大林組、熊谷組、竹中工務店を呼び、実態調査と対応の報告を指示し、三井建設には実態調査とバラライカビル工事の労災関係成立表の掲示を指示したという。

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吹きつけアスベスト除去工事でアスベストが飛散していた

 15現場のうち3現場でアスベストが吹きつけられており、2現場ではすでに専門業者の手で除去されていた。しかしこの除去工事にも多くの問題点が明らかになった。
 神戸デパートでは、吹きつけアスベスト除去中の室外のアスベスト濃度が除去工事前の濃度よりも高くなっていた。工事中に室外にアスベストが洩れ出ていたのだ。除去工事後の室内の濃度も4.6本/lと高かった。作業員はもちろん、周辺住民もアスベスト繊維を吸い込んだおそれがある。
 吹きつけアスベスト除去工事の際、除去後の室内のアスベスト濃度を測定し、外気と同等にまで下がったことを確認してから養生を撤去しなければならない。ところが2現場とも、養生撤去前の測定を行なわないまま、養生を撤去していた。そのため、養生を撤去した後でも4.6本/lという濃度だった。森本倉庫三宮ビル南館・西館では、施工計画書に養生撤去前の測定が明記されているのに実施せず、報告書を受け取った元請けの現場監督は気がついていなかった。専門業者任せにしていた実態が彷彿としてくる。

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歩道に解体現場の水を降らす熊谷組

 被災地の解体現場のひどさはアスベスト対策にとどまらない。先に述べたように解体の元請け業者が分からない現場が多い。さらに、熊谷組が解体していた神戸市中央区の雲井ビルでは、歩道側の養生を手抜きしているため、解体中の散水が歩道に降ってきていた。通行人が来ると、傘をさした警備員が近寄って傘を差し掛けていた。
 警備員は「明日、養生する」と言ったが、翌日も改善されていなかった。兵庫労基局に指摘されて、ようやく、養生を改善したという。

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「ない」はずの吹きつけアスベストが出てきた――厚生省の病院解体工事

 昨年8月28日、東京・中野区江古田にある旧国立療養所中野病院解体工事に関する周辺住民への説明会が開かれた。中野区議会議員の佐藤ひろこさんの質問に対し、「アスベスト含有建材はあるが、吹きつけアスベストはない」との説明だった。
 ところが、その後佐藤さんがアスベスト含有建材の除去方法について問い合わせたところ、吹きつけアスベストもあることが判明した。そこで11月11日、現場事務所で、佐藤ひろこさんおよび同じく中野区議会議員の稲岡けいろうさん、周辺住民3名とアスネットメンバー2名で、元請け=熊谷組の現場責任者からアスベスト工事について、以下のような説明を受けた。
 入札時に厚生省から提示された資料では解体予定の建物に吹きつけアスベストはなかったので、8月の説明会で「ない」と説明した。ところが9月下旬に再調査したところ、本館に約200平方メートルの吹きつけアスベストが発見された(今後解体する予定の建物も含めると608平方メートル)という。
 石綿板1,950平方メートル、ピータイル14,610平方メートルは、開口部を養生し、9月中旬から湿潤化してはがし、特別管理廃棄物として処理したそうだ。古い建物なのでピータイルはほとんどはがされていたというが、アスベスト建材除去作業中に3.6本〜4.2本/lのアスベスト濃度が測定されていた。労働省の指導通り、負圧・除じん装置を稼働すべきだった。
 吹きつけアスベストは11月20日から除去する予定で、住民から水の処理をきちんとすること、除去したアスベストの搬出の際、トラックから飛散させないことを要望した。

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アスベスト建材の除去方法はあいまい――建設省

 霞が関の合同庁舎2号館(人事院ビル)が解体されるとのニュースを見て、さっそくアスベストの調査・記録・対策について問い合わせた。
 工事を担当する建設省大臣官房官庁営繕部建築課によると、2期工事で解体する部分に吹きつけアスベストがあることは分かっているが、1期工事分についてはこれから調査し、今年5月連休明けから解体工事をはじめるという。建設省の仕様書では、ピータイルなどアスベスト建材除去時の飛散防止対策がはっきりしていないようだ。早急に負圧・除じん装置稼働を明記してもらいたい。
 新築工事に際しては、アスベスト建材を使用していないという説明だった。

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吹きつけアスベストを一部見落とし/建材も負圧で除去――東京都

 昨年12月14日、アスネットメンバー2名が都立江東商業高校解体2期工事に伴う吹きつけアスベスト等除去工事現場を見学した。同高校では1期工事の際にも、吹きつけアスベスト除去工事が行なわれている。発注者は東京都財務局営繕部、アスベスト除去業者はコンステック。
 東京都は昨年から、ピータイルも負圧で除去している。江東商業2期ではアスベスト建材はないという説明だったが、4階天井板の一部にフレキシブルボードらしいものが使われていた。吹きつけアスベストと一緒に負圧で除去することになった。
 施工計画書にはアスベスト吹きつけも1部屋脱落していた。天井板をはがして吹きつけを確認したあとがあるのに・・・。
 また、工事用電源は業者の自家発電でまかなうことになっているが、騒音に苦情が出るおそれがあるため、夜間は負圧・除じん装置を止めるという。建設省のマニュアルでも24時間稼働が規定されている。電源問題をクリアして24時間稼働させるべきだ。

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アスベストだらけのホテルニュージャパンは説明を拒否

 火災で黒焦げになったまま放置されていた千代田区永田町のホテルニュージャパンが解体されることになった。千代田区への届出は、吹きつけアスベスト1,369平方メートル、配管保温材8,660メートル、スレート、ピータイルなど約1万6千平方メートルを負圧で除去する計画になっていた。施主の(株)日本国土開発はアスネットとの話合いを拒否した。その後、新たに吹きつけアスベストが見つかったとのことで、アスベスト調査に不安が残る。

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解体工事の実態はまだヤブの中

 解体・建て替え工事を計画している千代田区神田駿河台の明治大学にもアスベスト対策を問い合わせた。「問い合わせを受けて調査した結果、アスベスト建材がある。工法など詳細は工事前に連絡する。埋蔵文化財の調査で解体工事が遅れている」とのことだった。
 以上のように、都内では建設省、厚生省などの解体工事でもアスベスト建材の対策はあいまいだ。民間ビルの解体も問題が多い。
 93年に都内で3,437棟の非木造建築物が解体されている。都の調査によれば民間ビルの27〜46%にアスベストが吹きつけられているので、927〜1,581棟のアスベスト吹きつけビルが解体されたと推測される。しかしアスベスト除去工事等の届出は、改修のみの場合も含め、わずか236件。民間ビルの8〜9割はアスベストを除去せずに解体していると思われる。

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(C) Jan.1996, ASNET

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