震災1周年と被災地のアスベスト汚染の現状
中地 重晴


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【項目】

環境庁の発表データから
今なお続くアスベスト飛散
アスベスト含有建材の規制強化を
必要なアスベスト調査員


環境庁の発表データから

 1月17日でちょうど震災1周年を迎えました。被災地域ではなくなった方の冥福を祈る行事など1年という節目に各地で催しがもたれました。しかし、被災地域の多くは更地のままであり、復興はこれからという感じを強く持っています。区画整理や再開発地域の指定を一方的に宣言された地域では計画との関係で建物の再建が進んでいないのが現状です。
 被災地域への関心が薄れたこともあり、夏までは遅れながらも毎月発表されていた環境庁のアスベスト調査結果が昨年末まとめて発表されました。昨年12月22日付で発見された結果を見てみると被災地域の一般環境中のアスベスト濃度(表1)はかなり低減し、安定したといえるようです。
 それでも、環境庁が毎年実施している環境モニタリング結果からすれば、93年度の住宅地の全国平均と比較すれば、3倍程度高い状態のままです。しかも、これでよかったと済まされない内容を含んでいるので注意が必要だと思います。

表1 アスベスト追跡環境調査
第1次調査結果〜第9次調査結果の概要 (単位:本/l)
 最大値最小値中央値幾何平均値
第1次調査
2.6-2.12
4.90.21.01.0
第2次調査
3.9-3.16
6.00.31.01.2
第3次調査
4.24-4.28
2.10.21.00.9
第4次調査
5.29-6.2
1.40.50.80.8
第5次調査
6.26-6.30
1.70.30.70.8
第6次調査
7.24-7.28
1.20.30.70.7
第7次調査
8.28-9.1
0.80.30.50.5
第8次調査
9.25-9.29
0.80.30.60.6
第9次調査
10.23-10.27
0.70.20.50.4

 一般環境中のアスベスト濃度の推移をみれば、被災直後の2月(第1次)、3月(第2次)調査では幾何平均値が1.0本/l、1.2本/lと高く、なおかつ最高値では6.0本/l程度の高濃度のアスベスト濃度が、神戸市の三宮や西宮市の中心街で検出され、アスベスト飛散が社会問題となりました。震災直後からすれば、半年以上経過した9月(第8次)、10月(第9次)の測定結果は確かにかなり低くなったとみてよいでしょう。
 また、同時に解体現場周辺での環境測定も、幾何平均値を比較すれば、4月(第2次)の3.8本/l、5月(第3次)の4.5本/lから、8月(第6次)、9月(第7次)の0.7本/lへと低くなり、一般環境中の濃度と大差がなくなってきたこと(表2)もわかります。

表2 建築物解体現場周辺調査
第1次調査結果〜第7次調査結果の概要(単位:本/l)
 最大最小中央値幾何平均検体数
第1次調査
3.9-3.16
7.70.82.63.020
第2次調査
4.24-4.28
9.50.95.43.816
第3次調査
5.29-6.7
19.90.94.54.518
第4次調査
6.26-7.18
9.50.32.32.020
第5次調査
7.25-8.8
9.90.20.91.322
第6次調査
8.28-9.21
4.50.20.50.710
第7次調査
9.29-10.23
8.60.10.40.716

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今なお続くアスベスト飛散

 この結果から、これで解体現場からのアスベスト飛散が止まったかというと一概には言えません。というのは、環境庁が調査している解体現場は飛散の恐れがある吹き付けアスベストのある建物とは限っていないからです。被災地域で環境測定のためにサンプリングを実施している時期に解体作業を行っている建物の敷地境界で測定しただけなので、建物にアスベストが使用されているかどうかは調べられていません。8月や9月になっても解体現場の最高値は8〜9本/lであり、震災直後のように防塵シートもかけないずさん解体現場が減り、きちんとしたところが多くなってきたにもかかわらず、今でも解体現場の一部ではアスベスト粉塵の飛散が続いていると考えるべきでしょう。
 専門業者による吹き付けアスベストの除去工事を行っていれば、きちんと養生シートをして、負圧集塵機で集塵していた場合、筆者の経験では周辺でのアスベスト濃度が数本/lを越えることはまずないといえます。そうであれば、数本/lのようなアスベスト濃度を検出した場合、養生シートが不十分でアスベスト粉塵が漏れていると判断せざるを得ません。
 逆に言えば、環境庁の解体現場の調査でアスベスト濃度が高いのは、吹き付けアスベスト除去によるものではなく、アスベスト含有建材を重機で粉砕しているためではないかと考えるのが妥当だと思います。この1年の活動の中でこの結論が正しいという思いが強くなってきました。

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アスベスト含有建材の規制強化を

 アスベストの発がん性がはっきりした段階で、法規制の有無とは関係なく、欧米ではアスベストの使用は減少しました。今ではほとんど使われていないといってもよいくらいです。ところが、日本では今なお年間20万トン程度のアスベストを輸入し、セメント等と混ぜて建材として使用されています。
 被災地では木造建築を新築する際、旧来の和瓦と土を使った屋根は重く、倒壊した原因の一つだと敬遠され、化粧石綿スレートによる洋瓦ばかりになっています。もし、もう一度大地震がきて倒壊したら、どうするのだろうかと悲しい気持ちになります。
 今回の地震の教訓として壊れたときに有害性を発するものは使わない、普段から減らすということを学んだわけですが、建築関係者の頭の中にはアスベスト含有建材のことはないようです。
 被災地アスネットの結成以降、神戸市や兵庫労働基準局などの行政関係者に申し入れるだけでなく、いわゆるゼネコンと呼ばれる大手建設会社の現場監督などの担当者とも話し合ってきました。若い現場監督の中には吹き付けアスベストがどんなものなのか知らない方もいました。驚いたことに、アスベスト含有建材についてはその危険性を認識して、対応しているゼネコンが皆無だということです。
 7、8月に兵庫労働基準局が大手ゼネコンを対象にしたアンケート調査で特化則で義務づけられた解体前のアスベスト事前調査を実施していると応えたものは109社中約4割だったそうです。
 阪神大震災という予想外の災害とその混乱を理由にアスベスト対策がおろそかであったことがはっきりしました。環境庁も今回の測定結果の発表時に、「今後への課題等」として、「震災に伴い被害を受けた建築物の解体・撤去に伴うアスベスト飛散防止対策については、(略)、対策の徹底に手間取り、時間を要したため、吹き付けアスベストの事前除去の十分なる対策が講じられずに解体・撤去が行われたケースも見られた。」と認めています。
 しかし、被災直後から解体工事の事前届出が義務づけられた6月までの混乱期まではそうかもしれませんが、それ以後は違法なずさんな吹き付けアスベスト工事は少ないはずですから、被災地域の環境中のアスベスト濃度の上昇はアスベスト含有建材の粉砕による飛散としか説明できません。
 解体に際して、アスベスト含有建材をどう撤去するのかが問題となっています。労働安全衛生規則どおり、アスベスト粉塵の飛散を抑えるためには、湿潤にした上で、負圧集塵することになるはずですが、今回の地震では災害廃棄物の公費負担の対象にはこの工事は計上されていません。被災地域のアスベスト汚染が継続していることを真剣に受けとめるのであれば、その対策としてアスベスト含有建材の撤去を吹き付けアスベスト並に、養生シートと負圧集塵機を使用するように義務づけるべきだと思います。また、復興に際してアスベスト建材を使用しないことも重要になります。

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必要なアスベスト調査員

 さらに、もしどこかで地震が起きたときのために、吹き付けアスベストやアスベスト含有建材についての知識を持った調査員を養成しておくべきだと思います。なぜなら、震災直後、いろんな業界の関係者が地震の被害状況をボランティアで調査し、その後の対策の基本を作りました。同じように、石綿業界の関係者も協力して、倒壊した建物を見て回り、吹き付けアスベストの有無を調査しました。その結果、3月末の時点で約40ヶ所程度しか見つけられず、その後の、吹き付けアスベストの除去工事を行わない、ずさんな解体工事を許してしまう基礎を作ったことを真摯に反省するべきだと考えています。この1年間、吹き付けアスベストの有無の調査は被災地アスネットの結成以後、住民からの問い合わせや被災地アスネットのボランティアの調査によって発見されて初めて、きちんとした除去工事が行われた解体現場も多かったことは事実です。次の地震に備えて、今からアスベスト調査を行う能力を持った調査員の養成が必要だと考えています。

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(C) Feb. 1996, Shigeharu Nakachi

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