東灘区住吉のマンション解体をめぐって
村田 吾土子


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【項目】

大気が凶器となる
近隣マンション解体工事の説明会
アスベスト含有建材の手剥がしを約束


大気が凶器となる

 昨年、1月17日の阪神・淡路大震災は、激震地、東灘区・住吉に住む私にとって、今までの半生で最も大きな衝撃を与えたものでした。それは体で感じた振動、耳で聞いた地鳴り、そして目で見た、ガレキと化した木造の家々や、傾いたビル、毛布に包まれ、歩道に並べられた遺体の数々、四方から立ちのぼる黒煙、といったもので表せます、そういったものとは全く別の、体にも直接感じず、耳にすることもできず、目にも見えない、もうひとつの衝撃を受けたのは、電話や、電気、ガス、水道と復旧した春のことです。
 ”アスベスト”――この言葉は初めて耳にする言葉ではありませんでした。老朽化した校舎を解体する時、吹き付けアスベストが発見された、等のニュースは耳にしたことがありました。それが今回の大震災において、我が身に関わってくるとは考えが及びませんでした。確かにTV報道や写真で、中の家具もそのまま、ベランダに干された洗濯物もそのままのマンションやビルが、壊されていく様を目にしていました。
 この不動のものと思っていた大地が揺れた今、あたりまえのように呼吸しているこの大気が、凶器となって漂っているという恐怖を急に感じはじめたころ、”被災地のアスベスト対策を考えるネットワーク”の電話相談開設の記事を目にし、電話した次第です。その時、応対してくださった東大の依田先生から、アスベストの重要性をうかがうことができ、それまで着用していた、普通のほこりよけのガーゼマスクから防じんマスクにかえ、クーラーやヒーターを利用し、窓は開放しない、洗濯物も乾燥機を活用し、ベランダに干さない、等、最大限の防衛策を講じました。

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近隣マンション解体工事の説明会

 そこで気になるのが、2軒南側のマンションです。築23年。SRC9階建のこのマンション、逆コの字形の3棟あるうち、西側の1棟は半地下の店舗部分が押しつぶされ、解体申請が出されているのです。このマンションの解体は、最も身近なアスベスト問題となりました。
 そこでアスネットの中地氏に相談したところ、解体工事が始まる様子だと、すぐ施工業者を調べて、説明会を開かせるよう御指導いただいたのです。
 震災からほぼ1年近い日が経とうとする昨年12月、マンションの外壁に囲いがされました。そんなある日、郵便受けに1通の封書。それはこのマンションの解体工事についての説明会の知らせが、近隣各位へ、として解体請負業者からのものでした。説明会当日、日曜日の午前中でしたが、会場におもむいた私達夫婦は、その出席者の少なさに驚きました。30人程でしょうか。件のマンションは東隣が区役所、北側は国道、西隣は郵便局、そして南側にマンションが2棟、我が家は1棟はさんだ南側ですが、業者が説明会の案内を何軒に配ったのかさだかではないものの、当初、我々が予想した人数の1/3程度でした。
 工事の概要の説明が始まり、質疑応答に入って、出席者から、ほこり、騒音、トラックやダンプカーの出入りに際しての質問があがり、業者も応えていましたが、アスベストについては誰も触れません。ほとんどが我々より年輩の方々でしたが、アスベストへの関心は全くないようでした。そこで挙手し、「今回の大震災においての家屋の解体について、ほこりや騒音、その他の不便に関しては甘んじて受ける覚悟があること、しかし、アスベストについては生命に関わる問題であるので、徹底した調査、説明があるべきである」として、アスベストの有無を先ず確かめたところ、「吹き付けアスベストは使用されていない」という。そこで、「アスベスト含有建材が、天井、床に使われていないか」という問いにも、「目で見てわかる範囲で無い」という。そこで、きちんとした調査を要求した次第です。
 しかし、業者は、「含有建材については、調査するのに手間がかかるので、そこまで手がまわらない。吹き付けアスベストのみ、調査する」というのです。アスネットの中地氏によると、建材のかけらでもゆずってもらえるなら、こちら側で調査可能とのこと。「そちらでできなければ、当方で調べる」と申しますと、業者は本格的にこちらでやります、ということになったのです。


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アスベスト含有建材の手剥がしを約束

 年があけ、1月中旬、再度の説明会が開かれました。そこではやはり、非飛散性とはいえ、アスベスト含有材がみつかったのです。ベランダのフェンス、波板スレート板、通路やごみ置場の天井といった所です。含有物はいずれもクリソタイルで、含有率は9〜15%。しかし、「非飛散性であるので、専門業者による完全密閉による除去作業には及ばない、ビニールシートで囲い、十分な散水を行ないながら手作業により、とりはずす」との事でした。懸念のPタイルについてはみあたらないということでした。アスベスト専門の調査会社の方の説明もあり、当方としては納得いたしました。アスネットの中地氏に相談した際、いきなり解体工事を始めるものと覚悟していた私にとって、2度にわたる説明会を設けてくれたこと、これはずいぶん誠意ある対応だと感じました。私なりにも納得できるものでした。しかし、”アスベスト”。これは体に感じることも、目で見ることも、耳で聞くこともできない凶器です。”アスベストはありません””Pタイルはありません”と言われればそれを信じるしかないわけです。業者側の説明をこちらが納得いくまできき、誠意ある対応を経て、信頼できると判断する。我々ができるのはそこまでです。
 説明会では最後に、”貴社の誠意ある対応に敬意を表すとともに、あとは信頼し、最大限の方策をとっていただけることを期待し、お任せします”と結びました。
 完璧といえることはないかもしれませんが、今回のことは自分なりに納得できた次第です。
 今後、全ての建物が安全に解体され、かつ建設され、住民の高い認識のもとに、健全な神戸の町が復興することを祈念いたします。

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(C) Mar. 1996, Atoko Murata

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