アスベストの基礎知識 | ||
温品 惇一 |
【項目】
身の回りにあふれているアスベスト
中学校、高校などの理科の実験を思い出してください。ガラスのビーカー
やフラスコに入った水をアルコールランプで熱するとき、四角い金網を使い ました。金網の真ん中の白いのがアスベストの一種、白石綿です。
アスベストは天然の鉱物繊維です。図1にあるように、6種類のアスベス
トが知られています。日本で主に使われてきたのは、クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)の3種類です。
*95年4月1日から毒性の強いクロシドライトとアモサイトは使用、製造が禁止されました。
日本では現在アスベストの採掘は行われていません。日本で使用されてい
るアスベストの約98%は、カナダ、ブラジルなど外国から輸入されていま す。
アスベストは熱や酸、アルカリに強く、丈夫な繊維なので、断熱材、防音
材、建材など、約3000種類の製品として大量に使われてきました。私た ちの身の回りにアスベストがあふれています。
アスベストは発がん物質
アスベスト繊維を吸い込むと、がん、あるいはアスベスト肺になります。(図2)
アスベストによるがんの一つが、最近急増している肺がんです。もう一
つのがんが悪性中皮腫です。肺のまわりなどを覆っている薄い膜(胸膜)、 あるいは小腸・大腸などのまわりの薄い膜(腹膜)にできるがんです。非常
に進行が早く、診断されてから2年以内になくなる場合がほとんどです。今 のところ、治療法は知られていません。
「安全な濃度」はない
どんなに少量のアスベスト繊維を吸い込んでも、がんになる可能性があり ます。アスベスト製品製造労働者の家族が、作業着についてきたアスベスト 繊維を吸い込んで悪性中皮腫になった例が数多く知られています。姉妹が2 人とも悪性中皮腫で死亡した例を調べたところ、子供の時、アスベスト含有 建材でできた小屋の屋根にのぼって、2人でワイヤブラシでこけを落とした ことがわかったという例さえあります。
他の発がん物質と相乗効果
たばこも、肺がんを起こします。アスベストとたばこによる肺がんの発が ん作用には相乗効果があります。アスベストの発がん性とたばこの発がん性
は、たし算ではなく、かけ算で効いてくるのです(図3)。たばこ以外の発 がん物質についても、アスベストとの相乗効果が知られています。
最近、肺がんが急増し、ついに1993年、男性のがん死亡の1位になっ
ています。アスベスト、ディーゼルエンジンの排ガスなども一因となってい るのでしょう。
アスベスト肺
大量のアスベスト繊維を長期にわたって吸い込むと、肺が繊維化し、アス ベスト肺(石綿肺)という病気になります。これは粉塵による病気、塵肺の 一種です。仕事から離れてアスベスト繊維を吸い込まないようにしてもなお らず、呼吸困難になって、死に至ります。アスベスト肺も治療法は知られて いません。
潜伏期間が長い--静かな時限爆弾
アスベスト繊維を吸い込んでも、すぐ病気になるわけではありません。 潜伏期間が非常に長いのです。吸い込んだアスベストの量によって違い ますが、アスベスト肺では8年から25年くらい、肺がんや悪性中皮腫 では18年から40年くらいの潜伏期間があります。体内に吸い込まれ たアスベストがひそかに病巣を広げ、ある日突然、自覚症状が表れます。
気がつかぬうちに吸い込んでいる
アスベスト繊維は非常に細い繊維です。クリソタイルの単繊維の太さ は3/10万ミリ、髪の毛の1/5000くらいですから、とても目に
見えません。単繊維が何本も束になったものがようやく顕微鏡で見える のです。
おとなは1年間に約400万リットルの空気を呼吸します。空気1 リットルに0.1本のアスベスト繊維が含まれていても、1年間に約40
万本ものアスベスト繊維を吸い込みます。
日本ではいまだに使われている
アスベストは日本の労働安全衛生法でも発がん物質として扱われ、吹 きつけは原則禁止されています。1987年ころから小中学校のアスベ ストが大問題となり、多くの人が「アスベストは使用禁止になっている」 と思っています。しかし実際には、いまだに年間21万トンものアスベ ストが使われています(1993年)。アメリカ合衆国の使用量の約8 倍、人口1人あたりでは約16倍、面積あたりでは実に194倍に達し ています。
9割は建材に
アスベストの用途は3000種といわれるほど広いのですが、発がん 性が問題になり代替品開発が進められています。91年現在、アスベス トの約9割が建材に使われています(図4)。その半分はスレートです。 ビルの解体や新築時のアスベスト汚染がいまや大問題になっています。
ヨーロッパ諸国では相次いで使用禁止
1980年代から、北欧諸国でアスベストの使用が法律で禁止されは じめました。アスベストによる被害者が急増するなかで、この動きはヨ
ーロッパ諸国に広がっています。1994年現在、ノルウェー、スウェ ーデン、フィンランド、デンマーク、スイス、イタリア、オランダ、ド
イツの8ヵ国がアスベストの使用を原則的に禁止しています。
ヨーロッパ統合の動きのなかでEU(ヨーロッパ連合)全体としてア スベスト使用禁止法の制定をめざす運動が進められています。EUでは
すでに、クリソタイル以外のアスベストの使用を禁止しています。おも ちゃ、塗料など14項目についてはクリソタイルの使用も禁止していま
す。
アメリカ合衆国EPA(環境保護庁)は1989年に、翌年からアス ベスト製品の製造を段階的に禁止する規則を公布しました。この規則は
91年の第5巡回高等裁判所の判決で覆されましたが、アスベストの危 険性に対する認識は市民に定着し、アスベストの使用量は年間3万トン
台、ピーク時の約4%にまで落ち込んでいます(図5)。
イギリス、オーストラリアも、法律で禁止してはいませんが、使用量 は激減しています。
ところが日本では、アスベストの使用はいまだに認められており、こ こ数年、かなり減少しているものの、年間約21万トン(1993年)、
ピーク時の約60%のアスベストが使用されています。
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