アスベスト被害を防止するための提言
近畿弁護士会連絡会


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【項目】

提言提出の件
アスベスト被害を防止するための提言 提言の趣旨
アスベスト被害を防止するための提言 提言の理由
アスベスト被害を防止するための提言 執行先


提言提出の件

1995年(平成7年)11月22日
[国]
 労働大臣青木薪次殿(外3省庁)
[近畿管内の府県知事]
 兵庫県知事貝原俊民殿(外5府県)
[罹災都市借地借家臨時処理法適用都市]
 神戸市長笹山幸俊殿(外32都市)
 近畿弁護士会連合会
  理事長上原洋允
 神戸弁護士会
  会長田辺重徳
 大阪弁護士会
  会長上原洋允
 
アスベスト被害を防止するための提言提出の件
謹啓 時下益々ご清祥のこととお慶び申しあげます。
 さて、近畿弁護士会連合会、神戸弁護士会、大阪弁護士会では、阪神・
淡路大震災に基づく処置に関連して、この度標記提言をとりまとめました
ので、ご提出いたします。
 つきましては、本提言の趣旨をご理解のうえ、速やかに措置を講じられ
ますよう要望いたします。
敬具

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アスベスト被害を防止するための提言 提言の趣旨

 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災に基づく処置に関連して、アスベスト被害を防止するため以下のとおり提言する。

  1. 国及び地方自治体は、工事責任者に対し、吹きつけアスベストの事前調査と地方自治体への報告、事前除去及び飛散防止対策を徹底させること。
     地方自治体及び労働基準監督署は、違反業者に対する厳正な措置を講じること。
     また、国及び地方自治体は、アスベスト調査員制度を新設し、専門家による事前検査、除去工事監視などを義務づけること。

  2. 国及び地方自治体は、工事責任者に対し、アスベスト含有建材についても、吹きつけアスベストと同様に事前調査、事前除去及び飛散防止対策を義務づけること。
     また、国及び地方自治体は、建物の解体・補修に伴うアスベスト含有建材除去費についても、公費負担とすること。

  3. 国及び地方自治体は、工事責任者に対し、アスベスト除去の作業従事者に高性能の防塵マスク及び付着しにくい作業衣の着用を徹底させること。

  4. 国及び地方自治体は、被災地住民に対し、アスベストの発ガン性及び防塵マスク着用の必要性の広報活動を行うとともに、工事責任者に対し、アスベスト除去作業現場の警告表示をさせること。

  5. アスベスト除去作業者や被災住民に対し、潜伏期間が長期にわたることを考慮しつつ、じん肺の対策の経験などを参考にして、健康診断、健康管理、治療、被害救済についての体制を検討し、整備すること。

  6. 国及び地方自治体は、廃棄物処理業者に対し、アスベスト廃棄物について、廃棄物処理法及び厚生省令で定めた方法による処理を徹底させること。

  7. 国及び地方自治体は、復興建築物はもとより建築物におけるアスベストを含まない建材の普及を奨励し、少なくとも国及び地方自治体発注の建物にはアスベスト建材を使用しないこと。

  8. 国及び地方自治体は、学校等の公共建物に使用しているアスベストの使用状況を全面的に調査・公表し、速やかに除去することなど、日常的な事故や地震・火災などに備え、万全の対策をとること。

  9. 国は、早急にアスベストの使用を原則として禁止するアスベスト規制法を制定すること。

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アスベスト被害を防止するための提言 提言の理由

 近畿弁護士会連合会は、本年4月、公害対策・環境保全委員会内に震災問題プロジェクトチームを組織し、緊急課題である本問題についての取り組みを開始した。そして、神戸市環境局災害廃棄物対策室でのヒアリンク調査及び神戸市内の建物解体現場現地調査を実施した。また、神戸弁護士会公害対策・環境保全委員会も独自に神戸市環境局大気課でのヒアリング調査等を実施した。
 近畿弁護士会連合会、神戸弁護士会、大阪弁護士会はこれらの調査結果を踏まえ、以下の理由により本提言を行うものである。

  1. 阪神・淡路大震災の被災地、とりわけ建物解体現場付近のアスベスト被害が極めて緊急な問題となっている。
     アスベストは石綿とも呼ばれる繊維状の天然鉱物の総称で、日本で主に使われているのはクリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)の3種類である。耐火性・断熱性・防音性などに優れ、建材として壁や天井やスレート屋根などの内外装に幅広く使われてきた。アスベストはじん肺の一種の石綿肺の他、肺ガンや悪性中皮腫というガンを引き起こす。特に悪性中皮腫とは、胸膜や腹膜などにできるガンで、そのほとんどがアスベストが原因とされている。肺ガンも悪性中皮腫も潜伏期間が数十年と非常に長いため、アスベストは静かな時限爆弾と呼ばれている。なお、アスベストには「安全な濃度」がなく、どれほど少ない量のアスベスト繊維を吸い込んでもガンになる可能性がある。

  2. このような危険性から、我が国では、1975年「特定化学物質等障害予防規則」の改正により、飛散性のアスベスト吹きつけが、重大な例外を除いては原則的に禁止されたが、建材等に含まれる形でのアスベスト使用は禁止されておらず、今でもピーク時の半分以上が使われている。労働安全衛生規則の改正により、1995年4月1日からクロシドライトとアモサイト及びこれらを1%を超えて含有するものの製造・輸入・使用などが禁止となったが、全体の9割を超えているクリソタイルが除かれている。ちなみに、ノルウェー・スウェーデン・デンマーク・スイス・イタリア・オランダ・ドイツがアスベストの使用を原則的に禁止し、またアメリカやオーストラリアでもその使用量はピーク時の数パーセントに激減している。

  3. ところで、大気汚染防止法によるアスベストの排出規制基準は、アスベスト製造工場の敷地と居住地の境界で1l当たり10繊維以下、また労働省告示の作業環境評価基準では、一般のアスベストは1l当たり2000繊維以下、なかでも毒性の強いクロシドライトが1l当たり200繊維以下とそれぞれ定められている。そして、アスベストを使っている建物を解体する場合には、建物をシートで覆ったうえ、薬剤を混ぜた水をまいて飛散を防止し、作業員も専用の防御服や防塵マスクを着用することが建設省のマニュアルで定められており、また、その処分の仕方についても、耐水性シートで二重に梱包し、土中や水中への流出防止等を施した管理型処分場に埋めることが厚生省令で規定されている。

  4. ところが、今回の被災地のアスベスト濃度は、環境庁の調査によると、
    1. 平成7年2月6日〜12日までの調査で、最大1l当たり4.9繊維、解体撤去作業現場の近傍地点で1l当たり11.2繊維ものアスベストが検出され、
    2. 同年3月9日〜16日までの調査で、最大1l当たり6.0繊維、幾何平均同1.2繊維が検出された。その後、
    3. 同年4月24日〜28日までの調査では、最大値は1l当たり2.1繊維、幾何平均同0.9繊維と減少したが、それでも1993年度の環境モニタリングの全国平均と比較して7〜8倍の高い値を示しており、また解体現場周辺では最大値が1l当たり9.5繊維に及ぶなど、依然高い数値を示している。
      さらに、この傾向は本年6月に行われた同調査でも、幾何平均値が1l当たり0.8繊維とほぼ変わっていない。

     このように、被災地のアスベスト濃度が高水準のままで推移している主な原因としては、

    1. 神戸市が1995年5月1日付「震災に伴う家屋解体・撤去工事におけるアスベスト粉じん対策に係る基本方針」で、ビル解体契約時の吹きつけアスベストの調査報告を、兵庫県が同年4月ビル工事解体マニュアルで、吹きつけアスベストの事前除去をそれぞれ義務づけているにもかかわらず、実際には、解体前の吹きつけアスベストの調査が極めて不十分であり、解体業者がアスベストに気付かずにそのまま解体したり、除去工事が杜撰で、現場周辺にアスベストが付着した建材が放置されていたりするケースがあること、
    2. 含有アスベストについては、スレート瓦・天井材・内装材に使用されているが、これについては地方自治体からの特別の指導はなく、解体に際して事前除去・飛散防止などの処置がなされていないこと等が考えられる。

     そして、神戸市三宮周辺の雑居ビルや東灘区のマンションをはじめ、未だ未解体建物が多数残っており、アスベスト濃度が高い状態は今後とも継続することが予想される。

  5. このように、アスベスト濃度が高く、危険な現状であるにもかかわらず、解体作業に従事している労働者にも、被災地の住民にも、その危険性が十分知らされていない。解体業者に従事する労働者はもっとも直接的に高濃度のアスベストを吸引するため、高性能の防塵マスクとアスベストが付着しにくい作業衣の着用が必須であが、そのような作業衣どころか、防塵マスクすら着用せずに解体作業を行っている場合もある。また、アスベスト使用建物の解体中であることが外部からわかる表示もなされておらず、被災地の住民が防塵マスクを着用して解体現場付近を通りすぎることは稀である。
     このままでは、数十年後に被災地では肺ガンなどが急増することになりかねず、特に子どもへの影響が極めて深刻であって、事態を放置することはできない。

  6. よって、ここに提言の趣旨のとおりの提言を行うものである。

   
 1995年(平成7年)11月22日 
 近畿弁護士会連合会
 神戸弁護士会
 大阪弁護士会

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アスベスト被害を防止するための提言 執行先

  1. 国 労働省、厚生省、建設省、環境庁

  2. 自治体 大阪府、兵庫県、京都府、滋賀県、奈良県、和歌山県、
    罹災都市(大阪市、堺市、岸和田市、豊中市、池田市、吹田市、高槻市、茨木市、泉佐野市、大東市、箕面市、高石市、神戸市、尼崎市、明石市、西宮市、洲本市、芦屋市、伊丹市、宝塚市、三木市、川西市、播磨町、津名町、淡路町、北淡町、一宮町、五色町、東浦町、緑町、西淡町、三原町、南淡町)

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(C) Jan. 1996, Kinki Federation of Bar Associations

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