解体作業従事者に深刻な粉塵暴露!
渡辺 充春


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【項目】

解体現場は健康を損なうほどの粉塵
深刻な粉塵暴露


解体現場は健康を損なうほどの粉塵

 昨年11月24日の朝日新聞社会欄の「ねっとわーく大震災」に次のような報道がされました。

 中田所長らの研究グループは、5月から20回被災地を訪れ、作業員26
人のえりに採じん装置をつけて作業時間中の粉じんを採取した。その結果、
調査対象の27%が許容基準を上回る粉じんの中にいた。
 産業衛生学会が総粉じんで1mあたり8mgと勧告した許容濃度を上回る
量の粉じんを吸っていたのが26人中6人。また、許容濃度が1mあた>り
2mg以下となっている0.007mm以下の細かい粉じんでは、2人が基
準値を上回っていた。しかし、作業中にマスクを着用していたのは26人中
2人だけ。
 震災で壊れた建物を解体する作業者の一部は、健康を損なうほどの粉じん
の中で働いている。

 この記事の元になった調査とは、昨年11月11日に京都府中小企業会館で行われた、第35回近畿産業衛生学会で、淀川勤労者厚生協会社会医学研究所の中田実所長(労働衛生専門)が演者で6名の共同発表「阪神大震災被災地区における粉塵暴露」が発表したものです。中田実先生等の調査の結果は表1の通りです。

表1 阪神大震災被災地区における粉塵暴露の結果
建築物作業内容吸入性粉塵量(mg/m総粉塵量(mg/m
鉄筋コンクリートビル重機運転n=60.066*−0.4900.208−2.402
散水n=10.5542.855
手元作業n=50.067*−0.7760.436*−2.284
内装除去作業n=31.266−2.5646.589−12.092
ガードマンn=10.2002.298
木造2F建アパート重機運転n=20.105−0.3490.421−15.455
散水n=30.427−2.1763.093−7.485
手元作業n=20.405−0.64916.507−16.912
鉄筋3F建住宅重機運転n=10.3407.993
散水n=11.01611.473
手元作業n=10.1089.541
隣接住居敷地内n=10.1135.989
仮設住宅室内n=30.090−0.4080.216−11.512
非被災地区住宅室内n=10.0130.151
(注1)各測定データは個人暴露の最小値−最大値を示す。
(注2)*測定前日に豪雨
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深刻な粉塵暴露

 被災地アスネットは環境中のアスベストを問題にするなかで、最も危険に晒されているのは現場の作業者であることを労働基準局との交渉の中でも指摘してきたところです。この発表は、私達の指摘を具体的に示すものとなっています。
 労働現場における粉塵の許容濃度は、大きくは、

  1. 遊離珪酸含有10%以上の粉塵
  2. 各種粉塵
に分けられ、各種粉塵の種類と許容濃度は表2に示したような基準になっています。ここでいう吸入性粉塵とは、一言でいえば、作業者が肺に吸い込みやすい大きさの粉塵で、総粉塵とは、作業現場に撒き散らされている粉塵全体の量と考えていいでしょう。この調査では基準を一番軽い第3種粉塵と比較していますが、対象となった鉄筋コンクリートビルでの粉塵は解体作業からの粉塵であることを考えれば、セメントや鉄など第1種や第2種に該当する内容物ですので、3種の基準より厳しいレベルで判断してもよいのではないかと思います。
 アスベストについていえば、一般環境なり敷地境界での規制値10本/lというレベルを作業環境で比較すると、200本/l(クロシドライト)というレベルになりますので、この調査ではアスベストは微量であったとされてはおりますが、許容濃度のゆるやかな3種で比較しても粉塵量が上回っていることから考えると、アスベストもかなりの量の作業現場での発生、暴露状態になっていると、予想できます。
 引き続き、このような労働現場、作業現場からの視点と実際にアスベスト調査がされることが必要と感じました。

表2 各種粉塵の許容濃度
 粉塵の種類許容濃度(mg/m
吸入性粉塵総粉塵
第1種粉塵滑石、ろう石、アルミニウム、アルミナ、
珪藻土、硫化鉱、硫化焼鉱、ベントナイト、カオリナイト
活性炭、黒鉛
0.5
第2種粉塵遊離珪酸10%未満の鉱物性粉塵、酸化鉄、
カーボンブラック、石炭、酸化亜鉛、二酸
化チタン、ポートランドセメント、石炭石、
大理石、線香材料粉塵、穀粉、綿塵、木粉
革粉、コルク粉、ベークライト
第3種粉塵その他の無機および有機粉塵
石綿粉塵クリソタイル、アモサイト、トレモライト
アンソフィライト、アクチノライト

クロシドライト

時間荷重平均:5μm以上の石綿繊維で2繊維/cm
(これに対応する石綿粉塵の重量濃度は0.12mg/m
ceiling 値:5μm以上の石綿繊維で10繊維/cm
(いかなる時も15分間の平均濃度がこの値を
こえてはならない)
0.2繊維/cm

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(C) Jan.1996, Michiharu Watanabe

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